入隊直前の検査で病気と誤診され大学生として終戦を迎えた三島由紀夫と…

西日本新聞 オピニオン面

 入隊直前の検査で病気と誤診され大学生として終戦を迎えた三島由紀夫と、14歳の疎開先で終戦を知った野坂昭如は、戦後の政治的主張は異にするが…

▼野坂は終戦翌年に読んだ三島の短編「煙草」に衝撃を受けた。のちに三島は野坂のデビュー作「エロ事師たち」を激賞した。野坂の著書には「赫奕(かくやく)たる逆光~私説・三島由紀夫」(文芸春秋)というのもある

▼そんな関係の中で、片や「火垂(ほた)るの墓」などを書きつつ反戦を語り、片や、世界的な小説家になった後は自ら結成した組織の会員を率いて自衛隊に乗り込み、決起を叫んで割腹自殺した

▼自決の4カ月前、戦後25年の1970年夏に三島は産経新聞に寄稿した。「このまま行ったら『日本』はなくなってしまう…(中略)無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目(ぬけめ)がない、或(あ)る経済的大国が極東の一角に残るのであろう」。高度成長期にそう書いた

▼2015年に死去した野坂は、戦後60年に出した「『終戦日記』を読む」(NHK出版)の中で書いた。「世間に弥漫(びまん)する虚無感、また、今日あるが如(ごと)く明日もあると信じ込んでいる楽天性、いつか誰かが何とかしてくれるだろうと、他人まかせ。これは戦争中も今も変わらない」

▼それぞれにこの国を思っているが、思い方が違う二人が別々の方角、別々の過去から放った言葉に、戦後75年の日本はどこまで堪えられるだろう。

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