解散しないビートルズ

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 1970年にビートルズが解散し、世界中のファンを嘆かせてから今年で50年となる。すでにメンバーの2人が世を去り、今では残された録音以外で彼らの演奏を聴くのは不可能だ。

 しかし、九州、特に福岡・筑豊の音楽ファンは幸せだ。そこに「解散しないビートルズ」がいるからだ。「筑豊のビートルズ」として長年音楽活動を続けるコピーバンド「ザ・フライングエレファンツ」である。

   ◇    ◇

 フライングエレファンツは1973年に結成。ビートルズのコピーとともにオリジナル曲も手掛け、90年にキングレコードからメジャーデビューした。92年には何とカーネギーホールでビートルズナンバーを演奏し、米国のファンの拍手喝采を浴びた。

 ビートルズのコピーバンドは数々あれど、エレファンツは日本でも最高レベルの一つだ。彼らによる「ノーウェアマン」の冒頭のコーラスを聴くだけで、ビートルズファンならその実力が分かるはずである。

 リーダーの安部米央(よねおう)さん(70)に「バンドと解散」について聞いてみた。

 -50年前ビートルズが解散すると聞いた時、どんな気持ちになりましたか。

 「ビートルズは、アーティストとして4人でやることがなくなったんだな、と思いました。つまりレット・イット・ビー。なるようになったんだ、と」

 「実はバンドって解散するのが普通なんです。何か志したときは意気投合したメンバーも、バンド内でのポジションが生じ、それぞれの主張が出てきて、違う方向を向くようになる。そして解散してしまう」

 -じゃあ、エレファンツが解散しないのは、どうしてなんでしょうか。

 「最大の理由は、ビートルズに対する愛が冷めないこと。その辺は『心が一つ』なのかな」

 なるほど。メンバー全員がビートルズという太陽の方を向いている、というわけだ。「方向性の違い」とは無縁なのである。

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 ビートルズは活動の後半、スタジオでのアルバム制作に熱中し、ほとんどライブをしていない。エレファンツのありがたいのは、ビートルズがライブで演奏していない曲もライブの曲目に加えていることだ。ある意味「ビートルズよりもビートルズを演奏している」と言えるかもしれない。

 彼らによって、この偉大なバンドに直接触れる機会がなかった地域や世代の人々にも「生のビートルズ」が伝わる。47年間の活動は「ビートルズの伝道師」の歩みと思えるほどだ。

 一つ気になっていたことを安部さんに聞いた。

 -ミュージシャンとして、オリジナルではなくコピーバンドの道を選んだことに悔いはありませんか。

 「いい質問ですね…。コピーバンドは『似てるね』『すごいね』とは言われても、商業ベースには乗れない。早い時期からオリジナル路線でやるべきだったかな、という若干の後悔はあります。でもね、僕らはビートルズを演奏するだけで幸せだったんですよ」

 「気が付けば人生、ビートルズ一色です」

 いや、ビートルズにはその価値がありますよ。安部さんに比べれば半端なファンである私がこんなことを言うのも僭越(せんえつ)ですが。

 コピーバンドに花束を。

 (特別論説委員・永田健)

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