佐賀豪雨1年 高齢者施設は警報で行動を、洪水時の工場リスク念頭に

西日本新聞 くらし面

新局面 災害の時代―後悔しない備え(21)

 佐賀、福岡両県で犠牲者4人を出した佐賀豪雨から間もなく1年となります。本連載の初回で、発災当時に「孤立」と報道された大町町の順天堂病院の用意周到な籠城作戦を紹介しました。記者の方々に「知らなかった。抜かれた」とお褒めの言葉を頂きました。でも、事前の防災減災に貢献すべき災害の専門家として三つの後悔をしています。

 その前年、2018年西日本豪雨の際、大町町は大雨特別警報の約3時間前、土砂災害警戒警報が出た時に避難勧告を出しませんでした。また大雨特別警報が出ても避難態勢を取らない高齢者施設もありました。

 それに気付いた佐賀の報道記者が、コメントを求めてきました。そこで「むしろ、現地で担当者に、なぜそうしなかったのかインタビューして放送しましょう」と提案しました。

 その時に初めて訪れた大町町で偶然、順天堂病院を見て驚愕(きょうがく)したのです。蛇行した「Ω」字のような川の間に立つ病院は洪水になったら逃げ道がありません。浸水リスクを病院側に伝えに行こうとしたのですが、時間の関係で報道スタッフに断られ、諦めて帰福してしまいました。

 悔やみつつ1年後の豪雨直後に訪ねたら、順天堂病院は西日本豪雨のまび記念病院を教訓に備えていました。ただ、西日本豪雨の番組でインタビューを撮影した土砂災害警戒区域にある高齢者施設は、1年後の佐賀豪雨時も避難行動を取らなかったと聞き、とても残念です。球磨川で今年起きた高齢者施設の悲劇を見るにつけ、警報が出たら必ず避難すべきなのです。

 二つ目の後悔は、洪水時の工場の危険性を事前に指摘できなかったことです。佐賀県で2番目に面積の小さな大町町。その割には大きな工場が目に付きました。そばの道路に「降雨時、冠水の危険アリ」と書かれた看板が何枚も立っています。ふと「工場内に危険物はないのかな」と思ったのですが、確認しませんでした。1年後にあの豪雨で油が流出し、一帯が汚染されたのはご存じの通りです。ハザードマップで浸水高と浸水範囲だけでなく、工場などのリスクにも気を付けなければなりません。

 三つ目は相手の心に響く言葉が足らなかったこと。

 学生ボランティア支援に熱心に取り組む佐賀県内の大学の先生方と一緒に、熊本地震などの被災地で活動する学生の発表会を催してきました。西日本豪雨後に「次は佐賀の防災関係者とネットワークをつくるため緩く飲み会から始めよう」という話になったのです。乗り気でない先生もおられ開催を見送ったところ、佐賀豪雨が発生。お店を予約してくれた先生と「やっておけば」と後悔したものです。その気になってもらう言葉が足らず、やり過ごしたことが悔やまれます。

 佐賀では今年の7月豪雨でも浸水が起きましたが、昨年の被災経験などから素晴らしい支援活動が展開されました。経験がないと、なかなか警告を自分ごととして考えられないのが現実ですが、事前にうまく伝えられるよう、専門性だけでなく人間性をもっと磨かなければと思いを強くしています。(九大准教授)

 ◆備えのポイント ハザードマップでは、浸水エリアや浸水高だけでなく、近所や避難経路上に工場や危険物を扱う所がないかも確認しましょう。

 ◆すぎもと・めぐみ 京都府生まれ。京都大大学院修了。東京大地震研究所特任研究員などを経て、2014年度から九州大助教、20年度から准教授(男女共同参画推進室)。専門は防災教育、災害リスクマネジメント。在インドネシア日本国大使館経済班員として2004年スマトラ沖津波の復興と防災に携わる。「九州大学平成29年7月九州北部豪雨災害調査・復旧・復興支援団」メンバーとして福岡県防災賞(知事賞)受賞。編著に「九州の防災 熊本地震からあなたの身の守り方を学ぶ」。

 

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