8マンの博士は訴える

西日本新聞 上別府 保慶

 今月5日の朝刊に漫画家の桑田二郎さんが老衰のために、85歳で亡くなったと小さく載った。

 全盛期の筆名は桑田次郎だった。1957年から「少年画報」に連載した「まぼろし探偵」はドラマになり、子役だった吉永小百合さんが出演した。前の東京五輪の頃は「週刊少年マガジン」に「8マン」を連載。「エイトマン」の題でテレビアニメ化もされ、最高視聴率は25%を超えた。

 「週刊少年マガジン」の講談社は、小学館の「週刊少年サンデー」の部数に追いつこうと「8マン」を企画した。一方で依然強い人気を誇る月刊誌「少年」とも勝負するべく、その二枚看板だった「鉄腕アトム」「鉄人28号」に対抗し得るロボット漫画を目指した。

 ストーリーを考える原作者には平井和正さんを起用した。のちに「幻魔大戦」などで知られるSF作家だが当時はまだ無名。シャープな線が持ち味の桑田さんと組ませ、ハードボイルドな大人の味を追求させた。

 主人公は警視庁の東八郎刑事が殉職し、その人格と記憶を電子頭脳に移植したサイボーグの8マンだ。8の数字は、人気ドラマ「七人の刑事」を意識し、警視庁のどの捜査班にも属さない8人目の刑事として秘密裏に活動する設定だった。

 新幹線より速く走り、合成皮膚で自在に変相しては事件を解決する8マンは子供たちをしびれさせた。

 アニメの提供は丸美屋食品工業。1袋30円のふりかけ「のりたま」に、8マンのシールをおまけに付けたら、売れに売れた。また8マンは電子頭脳が過熱すると、たばこに似た強化剤を吸って回復する。子供たちはたばこ形のチョコやハッカ菓子を買い求め物陰で口に当ててまねしたものだ。

 「8マン」には独特の陰があった。主人公は世間に機械の身であることを隠さねばならず、好意を寄せる女性の愛にも応えられない。そんな悲哀は後の洋画「ロボコップ」など、海外の作品にも影響を与える。

 そして何より、米ソが核でにらみ合う冷戦の時代背景が、物語に重い影を落とした。アニメ第1回で8マンを生んだ谷博士は言う。「どんな立派な発明でもそれを悪用する人間があればたちどころに悪魔の好機になる。アインシュタインは(当初)自分の考え出した理論が原水爆を生み出すとは夢にも思わなかった」

 最終回の第56話では8マンの活躍で危機が去って再び言う。「人類も今はくだらぬ仲間内の争いにうつつを抜かしている時ではない。他人に対し温かい愛の心を持つことだけがわれわれの生き延びる唯一の道だ」

 そんな作り手の思いが当時の子供にはどれだけ通じたか。争いの構図は今なお続く。頼りの8マンはいない。 (特別編集委員・上別府保慶)

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