全館休業でもテナント料? 請求めぐり訴訟も 行政の曖昧要請のツケ

西日本新聞 一面 黒田 加那

 「新型コロナウイルス感染症の影響で施設自体が閉館しても、賃料は必要でしょうか」。福岡市の商業施設に出店する菓子店から、そんな疑問が特命取材班に届いた。国の緊急事態宣言に伴い4月上旬から1カ月以上、全館休業になり、施設への出入りができなくなったが、賃料は請求されたという。詳しく聞いてみると-。

 この商業施設はJR博多駅近くにある。熊本市に本社がある菓子店は2019年から出店。月に30万円ほどの賃料を支払ってきた。

 店側の説明によると、政府の緊急事態宣言発表から一夜明けた4月8日、施設側から9日より全館休業するとのお知らせがテナントに配布された。福岡県が特別措置法に基づき、休業要請を決める5日前のことだ。入り口のシャッターが下ろされ、店舗には出入りできない状態となった。

 菓子店側は「休業しなければならない状態。閉館中の賃料は支払いかねる」と主張。施設側は「休業は強制したものではない。閉館方針に対し、すぐに抗議はなく黙示の合意があった」などとして、賃料を支払うよう求めた。

 その後、施設側が賃料支払いの猶予や一部減額を申し出たものの交渉は折り合わず、菓子店は6月30日、施設の管理運営会社を相手取り、賃料の無効などを求めて福岡地裁に提訴した。

 菓子店の担当者は言う。「施設側からは、福岡市の補助金などを活用して支払うことを勧められました。正当性のある請求なのか納得できないのに、税金を使うのはどうでしょうか」

 施設の管理運営会社は取材に対し「テナント個別の案件については答えられない」と回答した。

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 今春、休業要請はさまざまな業種に広がった。収入が減って経営が厳しくなるのは賃貸物件のオーナーもテナントも同じ。賃料を巡るトラブルは少なくない。

 法務省はホームページで新型コロナの関連情報として、賃貸借契約の基本的なルールをQ&A方式で説明している。これによると、オーナーが施錠するなどして物件に立ち入れず、全く使用できなくなった場合は「原則としてテナントは賃料を支払う義務を負わない」と解説している。

 ただ、ケースごとに事情はさまざまで実際の判断は分かれるとみられるが、感染拡大に歯止めがかからず再び休業要請という事態になった場合、同種のトラブルは増える可能性がある。

 問題の背景に、補償とセットではない休業要請の在り方があると、立命館大法学部の堀雅晴教授(行政学)は指摘する。「法的強制力がない『要請』という言葉で、政治や行政の責任をあいまいにしようとした結果ではないか」

 似た例として挙げたのが、かつての国の減反政策。立法措置を取らずに行政指導の形でコメの生産調整を進めた一方、目標面積が達成できない場合には翌年にその分を加算する“ペナルティー”を課した。「従えば食糧管理制度を守るために補助金がもらえる面もあったが、今回のコロナでは特措法に感染防止の協力要請に見合った補償規定がない」

 世界的に珍しい「お願いベース」で社会を一時ストップさせ、感染拡大防止を図った日本。市民の理解と協力あってこそだ。堀教授は「行政指導型の公共政策は健在で、国民の同調圧力をつくることで執行する一方、責任を回避している」と話した。 (黒田加那)

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