その正義感、大丈夫ですか?

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 先週火曜日の本紙を開くと、社会面の左右のページに興味深い記事が載っていた。いずれもインターネットの会員制交流サイト(SNS)を巡る出来事だ。

 左の面にあったのは「デマ拡散元市議に賠償命令」。昨年8月に起きたあおり運転殴打事件で、無関係の女性を「同乗者」とするデマをネットで拡散した愛知県の元市議が、裁判で損害賠償33万円の支払いを命じられた、という話だ。元市議はこの女性があおり運転の同乗者だというデマを信じ、女性の実名を挙げ「早く逮捕されるように拡散お願いします」とフェイスブックに投稿していた。

 疑問に思うのは投稿の動機だ。元市議は「身勝手な正義感だった」と釈明しているが、そもそもこれを「正義感」と呼べるだろうか。SNSで「逮捕を」と主張しなくても警察は必要ならば捜査するのだ。集団で人をたたくゆがんだ風潮に乗って行動し、それを自分で「正義感」と思い込んでいるだけに見える。

 無関係なのにこんなデマを広められた女性の迷惑と恐怖は想像に余りある。元市議に賠償命令が出たのは当然だが、33万円は安過ぎるのではないか。

   ◇    ◇

 その右側の面に載っていたのは「感染者 デマが追い打ち 『コロナ責められ自殺』SNSに」。新型コロナウイルスの感染が確認された福岡県の60代男性について「感染を責められ自殺した」というデマが拡散している、という記事だ。

 SNS上では「男性が営む理髪店に誹謗(ひぼう)中傷の落書きをされた」などもっともらしいことが書かれているが、この男性は「全て事実ではない。知らないところでデマが拡散していて不愉快。もうやめてほしい」と訴えているという。

 この件では、男性が自殺したという前提で「人を自殺に追い込んで、何がしたかったんやろ」とツイッターに投稿した発信者が本紙の取材を受けた。「こんな陰湿なことをする人がいるのかと許せなかった」と動機を説明し「悪意はなかったが迷惑を掛けた」と反省の弁を述べている。

 この「許せなかった」というのも「正義感」だろう。元市議のケースとは違い、気の毒な人への同情から発しており、投稿の動機そのものには共感できる。しかし、根拠となる情報が間違っていたため、正義感の空回りどころか、当事者に迷惑を掛ける結果となってしまった(ただ、この発信者がきちんと取材に応じたのは偉いと思う)。

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 正義感というのは「取扱注意」である。社会を良い方向に変える原動力となる一方、独善に陥りやすいという特性を持つからだ。

 正義感に駆られてSNSで発信するときは、少なくとも二つの自己点検が必要だ。一つは、その元になる情報が確実な事実か。報道機関などプロのチェックを経た情報なら一定の信用が置けるが、それ以外の情報は少々時間をかけて真偽を見極めた方が安全だ。

 もう一つは、自分の正義感が本物かどうか、である。集団バッシングや鬱憤(うっぷん)晴らしに「正義」の看板を掛けてはいないか。「注目されたい」などの感情が交じっていないか。一呼吸置いて心の中を点検したい。

 「送信」をクリックする前にご確認を。その正義感、大丈夫ですか。

 (特別論説委員・永田健)

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