門司港を舞台に新作 京都郡在住・町田そのこさんが故郷を離れぬ理由

都会に憧れ、地元見直す

 福岡県京都郡在住の作家、町田そのこさん(40)が5作目の小説「コンビニ兄弟-テンダネス門司港こがね村店」(新潮社)を刊行した。大手出版社から注目を浴びながらも、故郷での暮らしを変えずに人気作品を放ち続ける町田さんとはどんな作家なのか。初めて地元福岡を小説の舞台にしたという北九州市の門司港でインタビューした。

 小学3年のとき、少女小説ブームを起こした氷室冴子さんの作品を読んで衝撃を受け、自分も作家になりたいと思った。それからは本に没頭し、物語を書きまくり、高校では演劇部のシナリオまで書いた。

 だが卒業後に進んだ理美容学校では実技習得に必死で、小説を書く余裕はなくなった。就職や転職、結婚や子育て、慌ただしく10年が過ぎた28歳のとき、憧れの氷室さんが51歳で病死、また衝撃を受けた。「この人に会うために作家を目指したのに、私は何をしているのか。自分にあきれ、また書き始めました」

 夜泣きする子どもを抱きながらケータイ小説を書いて投稿し続けた。2014年、初めて文学賞に応募したのが新潮社主催の「女による女のためのR-18文学賞」だ。ネットで作品を送れるのが魅力だった。

 「私はすごいコンプレックスがあって、都会に住んで、いい大学を出ていないと作家様にはなれないと思っていた。おまけにプリントした作品を封筒に入れ郵送なんて敷居が高くてとても無理。ボタン一つのネット応募だから踏み切れたんです」。でも結果は散々で1次選考で落ちた。

 実力が足りないと痛感し、2年間、むさぼるように本を読み、物語の構成などを独学。16年、2度目の挑戦でR-18文学賞の大賞を射止めたのだった。

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 青春の地はJR小倉駅周辺、初デートは旧スペースワールド、行橋市の菓子店で働いた時期もある。ずっと大都会に憧れ、その裏返しでもあるコンプレックスを抱えながら、今も故郷に住んでいる。

 「出て行くタイミングは何度もあった。受賞したときも東京に出ようかと考えた。作風の幅が広がり、仕事が増えるかもしれない。でも、残っている。結局、田舎が好きなんでしょうね。東京や大阪の良さは名だたる先輩方が書いてきた。引けをとらない舞台が身近にあるなら、ここでいいか、と思うようになった」

 執筆は主に家事の合間。思いついたらパソコンに向かう。集中しすぎて、干し忘れた洗濯物が真夏の洗濯機の中で異臭を放ったり、解凍した肉を翌日発見し「うあああ!」と叫んだりしたことも。

 そんな日常を繰り返し、作家でいられる自分に、少し自信がついた。「東京の出版社の編集さんたちは、私がついていけない高尚な会話をするに違いないと思っていた。でも違っていた。人って、勝手にハードルをつくるんですね。私みたいに本を読んで文章を書くのが好きな田舎の子たちには、私が励みになるかもしれない。大丈夫だよって言ってやりたい」

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 門司港は車の免許を取ってよく訪れた大好きな場所。「コンビニ兄弟」は、架空のコンビニ店を舞台に、自らを重ねた漫画家志望の塾講師や、人間関係に悩む女子中学生など、客たちが織りなす6編連作の人情物語。JR門司港駅や旧門司税関など門司港レトロの観光スポットもちりばめている。「小説の舞台をあまり特定したことはなかったが、自分の見知った土地を客観視してみたら、ああいいな、見直してみようと思って」。続編も考えているという。文庫版書き下ろし、670円(税別)。 (石黒雅史)

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 町田そのこ 1980年、京都郡生まれ。北九州市立高等理容美容学校(八幡東区)を卒業後、理容院や菓子店などに勤務。2016年に「カメルーンの青い魚」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。翌年、同作を含む連作短編集「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」を刊行し作家デビュー。他著書に「ぎょらん」「52ヘルツのクジラたち」など。家族の意向で居住町名や家族構成は非公開。

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