【デジタル変革】 松田美幸さん

◆暮らしと地域に恩恵を

 国内でフィルムカメラとデジタルカメラの出荷台数が逆転したのは、2002年だそうだ。デジタル化によって、撮ったその場で画像を確認でき、現像料金が不要というメリットが生まれた。

 デジタルカメラの国内向け出荷台数は08年にピークを迎えた。この年以降、カメラ付きスマートフォンの普及が一気に進み、写真や動画撮影が簡単になっただけでなく、そのまま送信したり、インターネットで世界の人と共有できるようになった。マイナンバーカードの申請に必要な顔写真も、スマホで撮影してすぐ送れる。

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 今、話題の2文字「DX」とは「デジタルトランスフォーメーション」を指し、デジタル技術を活用して、ビジネスモデルそのものや生活様式が大きく転換する「デジタル変革」のことを言う。

 フィルムからデジタルカメラへの移行は単なるデジタル化。スマホの登場によって人々の暮らしにもたらされた大きな転換は、まさにデジタル変革と言える。

 今や、スマホは、誰もが世界に発信できる放送局であり、どこでも仕事ができるオフィスや、行政手続きができる窓口になっているのだ。

 政府は13年に「世界最先端IT国家創造宣言」を発表して以来、業務のIT化や手続きのオンライン化を進めてきたが、世界の動きと比較すれば周回遅れだ。昨年12月に改定されたデジタル・ガバメント実行計画の冒頭では、単に過去の延長線上でデジタル化するのではなく、次の時代の新たな社会基盤を構築するDXの観点が強調された。

 そして今年7月に発表されたIT新戦略は、新型コロナウイルス感染症拡大の緊急事態下での、デジタル対応の課題を浮き彫りにした。テレワークやオンライン教育の遅れ、給付金や助成金の申請手続きの非効率さなど、影響を受ける人の範囲が一気に広がり、問題が顕在化したのだ。

 国が発表する計画文書の多くは国民向けに書かれているとは言い難いが、このIT新戦略だけは、すべての国民に読まれるべきだ。「DX」は技術だけの話ではなく、社会全体の行動変容がなければ成功しないからだ。

 「対面・高密度から『開かれた疎』へ」「一極集中から分散へ」「迅速に危機対応できるしなやかな社会へ」。コロナ後のニューノーマルの視点として掲げられる3点を実現するには、生活者自身も変わる必要がある。

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 新しい旅の体験として、オンラインバスツアーが人気のようだ。福岡県福津市の観光協会では、オンラインの参加者と神社を正式参拝した後、事前に届けた名産の鯛(たい)茶漬けを一緒に食すという趣向を凝らした。こうした取り組みは、コロナ下の一時しのぎではなく、コロナが収束しても、引き続き需要を掘り起こす商品になると思う。

 これまで健康上の理由や日程の都合などで参加できなかった人でも楽しめ、普通なら観光客が入れない場所に案内できる企画は、付加価値を生み出す。リアルな旅の代替ではなく、リアルではできないことをデジタルが実現することで、誰も取り残さない社会に近づけることにもなる。

 従来のデジタル化推進では、高齢者層が置き去りにされる懸念もあったが、コロナの影響でその状況も変化している。内閣府が5~6月に全国で実施した調査では、60歳以上で、ビデオ通話の使い方が分からず利用したことのない人の6割超が「今後は利用したい」と回答している。

 外出するとリスクの高い方や孤立しがちな方など、シニア層こそ、デジタル社会の恩恵を受けられるような支援を進めていきたい。

 【略歴】1958年、津市生まれ。三重大教育学部卒、米イリノイ大経営学修士(MBA)。2017年12月から現職。福岡県男女共同参画センター「あすばる」の前センター長。内閣府男女共同参画会議議員、経済産業省産業構造審議会臨時委員。

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