「親のため」同性愛、苦渋の偽装結婚 偏見根強い中国 海外で代理出産も 

西日本新聞 国際面 川原田 健雄

 「子孫を残すことが親孝行」という伝統的な考えが根強い中国で、数千万人とも言われる同性愛者が結婚に頭を抱えている。若い世代を中心に偏見は薄らいでいるが、同性愛を周囲に打ち明けられず、親から異性との結婚を迫られる若者は多い。男女の同性愛者同士で「偽装結婚」したり、代理出産で子をもうけたり、それぞれの選択には決意と苦悩がにじむ。

 「上海で“形婚”してくれるレズビアンの女性はいませんか」。7月、こんな呼び掛けが短文投稿サイトの微博(ウェイボ)に書き込まれた。形婚とは「形式結婚」の略。ゲイとレズビアンが形だけ婚姻届を出し、仮面夫婦となることを指す。

 投稿したのは上海に住むゲイの張さん(23)。「70歳の父と、68歳の母は高齢なので早く結婚しろというプレッシャーがすごい」とため息を漏らす。実は2人は養父母。「実の息子は交通事故で亡くなったと聞いた。養子の僕が同性愛者だと知ったら2人はとても立ち直れない」。悩んだ末に出した結論が形式結婚だった。

 2年半前に相手探しを開始。交際している1歳下の男子学生は「本当は女性と結婚なんてしてほしくないけど、形婚なら…」と認めてくれた。これまでに4人の女性から連絡があったが、上海在住者は1人だけ。彼女も交際相手の女性の反対で婚姻関係を結ぶには至らなかった。

 形式結婚にはトラブルも伴う。結婚後、体外受精で子どもを授かったものの、女性側が妊娠・出産を負担に感じ、男性側に多額の金銭を要求したケースもある。それでも張さんは「結婚前に細かく打ち合わせて契約書を交わせば大丈夫」と意に介さない。

 形式結婚で親を欺くことに後ろめたさはないのか。そう尋ねると「僕が結婚すれば両親は役目を終えたと安心できる。あくまでも善意のうそだ」と伏し目がちにつぶやいた。

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 中国では長年、同性愛は不良行為に当たる流氓(りゅうぼう)罪(ごろつき罪)の対象だった。1997年の刑法改正で犯罪扱いされなくなったが、2001年までは「精神疾患」に分類されてきた。今も同性愛の子どもを強制的に病院へ連れて行き“治療”を受けさせようとする親は少なくない。

 偏見を恐れ、自分が同性愛者だということを隠したまま異性と結婚する人も多い。上海に住む男性会社員の徐さん(35)は12年に、親戚から紹介された女性(38)と結婚。小学生の娘もいる。だが「本当に好きなのは男性」。8年連れ添った妻に同性愛者だと打ち明けられずにいる。

 結婚前は複数の男性と交際経験があり、今もゲイの知人と連絡を取り合う。妻にばれないよう携帯電話の通話履歴はすぐに消去するよう心掛けている。

 中国では同性愛者の夫を持つ妻は「同妻(トンチー)」と呼ばれ、国内に約1千万人いるとの推計もある。結婚後に事実を知ってショックを受け、自殺した女性もいるという。徐さんは「もし自分が同性愛者だったらどうする?」と冗談めかして妻に尋ねたことがある。妻は「早めに言ってね」と笑ったが「本当に打ち明けたらすぐに離婚されるだろう」と覚悟する。

 本当の自分を隠したまま暮らす日々に息苦しさは増す一方だ。「同性愛の女性と形式結婚すれば良かった。そうすれば自分を偽らずに済んだのに。今は自分らしく生きるのが難しい」

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 「他人をだますことが正しい選択とは思えない。いくら装ってもいつか絶対ばれる」。広東省深圳市在住の安徽さん(34)は形式結婚にも、同性愛を隠して異性と結婚することにも否定的だ。選んだのは「代理出産」。交際相手の男性(37)が結婚して子どもをつくるよう親に迫られ、精神的に追い詰められているのを見て思い付いた。

 体外受精した受精卵を代理母の子宮に移植して子どもをもうける代理出産は中国では違法。このため法律で認められたロシアに会社を設立し、11年から同性愛者や不妊に悩む夫婦を対象に代理出産業を始めた。

 安さん自身もドイツ人女性から卵子の提供を受け、15年に三つ子の男児を授かった。代理母は20万元(約300万円)の費用がかかったが「仏教徒で性格が温和」だとしてタイ人女性にこだわった。

 3人の息子は現在5歳。「ママは誰なの?」と尋ねられることもあるが「別の場所に住む女性のおなかから生まれたんだよ」とごまかさずに答える。新型コロナウイルスの感染拡大で、ロシアに足止めされている交際相手の男性は毎晩、テレビ電話で子どもと話すのが生きがいだ。「息子たちは父親が2人いることに何の疑問も抱いていない。ずっとそういう環境だから自然に受け入れている」

 安さんの会社は昨年、約300人の代理出産を成功させた。ただ、1件当たり50万~70万元と高額なこともあり、同性愛者の依頼は全体の1割程度にとどまる。偏見が根強い地方都市や農村部では、同性カップルが代理出産でもうけた子どもを育てること自体、ハードルが高いのが実態だ。「私は自分の会社を持ち経済的に自立しているので、他人からどう思われても構わない。ただ、誰もがそんなに強いわけじゃない」

 全国人民代表大会(全人代=国会)の委員会が昨年、民法などの改正案審議に合わせてインターネットで意見を募集したところ、中国でも同性婚を認めるよう求める声が相次いだ。結局法制化は見送られたが「ようやく声を上げられるようになった」と前向きに捉える同性愛者も少なくない。

 安さんは「結論を急いでも仕方ない。まず自分が生きたいように生きられるよう、強くならないといけない。一人一人が変われば社会も変わる」と述べ、真っすぐ前を向いた。

 (上海、深圳で川原田健雄)

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