「本物より先に完成を」陶芸で縮小版のサグラダ・ファミリア作成中

西日本新聞 社会面 横田 理美

福岡市の陶芸家、8年間で塔13本

 スペイン・バルセロナの世界遺産で、130年以上も建築が続く未完の大聖堂「サグラダ・ファミリア教会」を模したミニチュア作品を制作している陶芸家がいる。福岡市の吉田由良さん(68)。これまで8年間で、約40~70センチの陶製の塔13本を作った。一方、建築家ガウディの代表作である本物は、18本の塔を擁して2026年に完成予定とされる。吉田さんは現地で建築に携わる同市出身の彫刻家、外尾悦郎さん(67)に面会。その哲学に触発されており、「本物より先に完成させたい」と意気込む。

 吉田さんは大学卒業後、服飾関係の会社に就職。40代で脱サラし大阪で起業したが、経営は性に合わず。趣味の陶芸に没頭する妻由美子さん(69)の横顔がまぶしく見え、気付けば自身も「五十の手習い」で粘土をこねていた。

 まもなく福岡市に帰郷し、夫婦で工房を構えた。しばらくは、ゆがみも味とする妻のおおらかな作風をまねていたが、「本当の僕は緻密に根気強くやるタイプで…」。12年に興味本位で取りかかったのがサグラダ・ファミリアのミニチュア制作だった。

 手始めに大聖堂を構成する塔を1本作ってみた。だが、写真では見えない裏側までは作り込めなかった。「それなら実物を見に行こう」。現地へ赴き、本物を細部まで観察。外尾さんとの面会もかない、「神は(完成を)急がない」との言葉を残したガウディを継ぐその哲学まで学んだ。

 「塔は4本くらいと思っていた。とてつもないものに着手してしまった」。吉田さんは当時の心境を笑いながら語る。作品では彫刻や装飾が施された緻密さではなく、遠目に仰ぐ無機質な表情を再現。電動ろくろで長い筒をこしらえ先端を細め、半乾きになったら、塔を彩る窓の模様をカッターやドリルで切り込む。全体のバランスを見ながらの骨の折れる作業だ。

 粘土が乾く前に仕上げなければならず、1本に費やせる期間は2週間。陶芸教室での指導や地域に梅の木を植樹する活動など、多忙の合間を縫って制作を続けた。

 ガウディの光へのこだわりに敬意を表し、塔の中には電球を仕込んだ。8年間でできたのは、愛らしく幻想的な13本。体調を崩した時期もあったというが、進み具合は少々遅め?

 「矛盾しているけど、完成させたくないという気持ちもあって…」と吉田さん。「完成ではなく、制作をきっかけに起こる人生の出来事を楽しむことが実は目的なのかもしれません」。小さな大聖堂に自分なりの哲学を刻む。 (横田理美)

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