伊万里の「黒」と「白」 古賀英毅

西日本新聞 オピニオン面 古賀 英毅

 豪雨の後、佐賀県伊万里市の郊外を運転中、キラリと光る黒い塊が路上にあるのに気付いた。黒曜石だ。場所は「伊万里富士」とも呼ばれる腰岳の麓。矢尻やナイフなど狩猟具となる石器材料の産地として知る人ぞ知る山だ。

 腰岳の黒曜石を加工した石器は、3万年以上前の後期旧石器時代の初めごろから2千年ほど前の弥生時代中期まで使用された。九州全域で確認され、遠くは朝鮮半島、沖縄本島からも見つかっている。

 腰岳は標高487メートル。上部が白っぽい流紋岩、中ほどが黒い玄武岩。流紋岩質マグマが急速に冷えてできる黒曜石は、その境目あたりに帯状に広がる。路上で見掛けた石は大雨で麓まで押し流されてきたものだろう。

 考古学クラブに在籍していた高校時代、畑などで真っ黒な矢尻を見つけ興奮したことがある。だが、伊万里では黒曜石が場所によってはごろごろしている。腰岳に登った時は、まるでたき火をした後のように破片が道の脇に散らばっていることに驚いた。

 「昔の腰岳はもっと標高が高く、黒曜石もいっぱいあったのではないか」と市教育委員会生涯学習課の船井向洋さんは言う。実際、直線で8キロほど離れた所から、黒曜石の原石が見つかっている。山体崩壊か火砕流で運ばれたと考えられ、昨年同市であった旧石器の研究会では、原石が見つかる場所を分析することで腰岳の昔の標高が分かるのでは、という話も出ていた。

 旧石器に詳しい福岡県教委文化財保護課の杉原敏之さんによると、腰岳の黒曜石は不純物が少ない良質な石材で、旧石器人が好んで使ったそうだ。「海上を往来する船で運ばれたり、狩猟採集活動の中で腰岳に立ち寄り原石を入手したりした」と解説する。

 大分県姫島村も九州の黒曜石産地としては知られるが、色は灰色。一方、腰岳産は黒々として輝いている。「大学生のころに漆黒で半透明に透き通るガラス質の石を見た時、素直に美しいと思った」。杉原さんにとって、旧石器時代を研究するきっかけとなった出合いだという。

 黒曜石の時代から時を経た江戸時代。伊万里は磁器の積み出し港となり、欧州でも人気を博した磁器の代名詞となった。白色の磁器の原料となる陶石も流紋岩が熱水で変化したものという。採掘された佐賀県有田町の泉山は腰岳から連なる山地にある。

 「黒」と「白」。色に違いはあっても、伊万里から各地へ運ばれた特産品は、いずれも火山活動のたまもの。地球から地域への贈り物だ。 (東京支社)

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