バス、タクシー…ドライバー困窮 コロナ減収や解雇、規制緩和も影響

西日本新聞 くらし面 河野 賢治

 貸し切りバスやタクシーの運転手が、新型コロナウイルスの影響で生活苦に陥っている。外出自粛や旅行控えで利用者が減り、勤務先を解雇されたり、減収になったりしているという。運輸産業は1990年代以降の規制緩和で参入が自由化され、過当競争になった経緯があり、その影響が今も残る中でコロナの打撃を受けたようだ。

 「どげんもしきらん。明日で閉鎖します」。2月末、福岡県内の貸し切りバス会社。社長から倒産を告げられ、社員の男性(62)は「やっぱりな」と思った。

 会社は主に、クルーズ船で訪れる外国人を顧客にしていた。ところが、コロナの影響で寄港は減少。バスの予約も減り、2月はほぼゼロになった。

 男性は1、2月分の給料をもらえず、2月末で解雇された。手取り14万~15万円の月給と、月9万円ほどの厚生年金を頼りにしており、生活は苦しくなった。

 月額で10万円ほど失業給付が出るものの、厚生年金と同時に受け取ることはできない。その受給も8月で終わってしまう。

 求職活動で応募した6社には全て断られた。「若い人から採用される。ほんと、きついですよ」

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 男性の会社は、インバウンド(訪日外国人客)が主な取引先だったため打撃を受けた。それに加え、バス業界の構造も背景にある。

 貸し切りバスやタクシーといった運輸産業はもともと、安全確保のため、参入や運賃設定に行政の許認可が必要だった。この規制が90年代以降、諸外国に追随するように法改正が進み、事業開始や運賃設定がほぼ自由化された。公の需給調整がなくなり、新規参入が進んだ。

 貸し切りバスの事業者数は2018年度、約4100社となり、規制緩和前のほぼ2倍に。車両が10台以下の中小事業者が多く、景気や価格競争に左右されやすくなっている。

 タクシーも似た傾向にある。福岡市のタクシー会社に勤める男性(71)は今年4~6月、手取りで25万円ほどあった月給が10万円以上減った。夏のボーナスも6万円台だった。

 コロナ禍で客は減り、1日の売り上げは、通常の4万円台が1万円のことも。「30年乗っているけど、今回は本当にひどい」

 法人タクシーの台数も02年の規制緩和で増えた。07年度は約22万9千台で、00年度から約1万8千台増加。その後はリーマン・ショックや、供給過剰地域での参入を厳しくできる特措法の施行で、18年度は約18万台に落ち着いている。

 しかし、18年度の輸送人員は00年度から約6億人も減っている。タクシー運転手の年間所得は300万円前後で、全産業平均の半分程度とされ、厳しさがコロナでさらに深刻になった。

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 タクシー運転手の苦境は会社勤務の場合、特殊な給与体系にも要因がある。ドライバーの運送収入が少なければ少ないほど給料が減る「累進歩合制度」だ。

 例えば月間の運送収入が50万円なら、給料は50%の25万円。運送収入が40万円なら40%の16万円-とする制度。残りは会社の取り分となる。長く続く業界の慣習という。

 この場合、会社の収入はそれぞれ25万円、24万円とほぼ変わらない。車両を増やせば利益を確保でき、経営者にとって増車しやすい環境になっている。

 暗黙のルールは他にもある。給料を減らさずにノルマを達成しようと、客を乗せずに走り、運賃を手出しする行為。運転手は60歳以上が多く、年金だけでは暮らせないため、手出し行為は後を絶たない。黙認する会社もあるという。

 先のタクシー運転手の男性は累進歩合制度について「会社に改善するよう言ったが、なかなか難しい。8月もコロナの第2波で厳しく、せめて収束するまでは乗務員を助けてほしい」。

 観光バスやタクシーの労働組合が加盟する全国自動車交通労働組合総連合会(自交総連)の内田大亮(だいすけ)・常任中央執行委員は「規制緩和でバスやタクシー運転手の賃金は落ちるところまで落ちた。そこにコロナが発生し、業界の問題はさらに深刻になっている。現状は供給過多で、需要とのバランスを取る施策が必要ではないか」と訴えている。 (編集委員・河野賢治)

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【ワードBOX】運輸産業の規制緩和

 国は1996年、交通運輸事業で多様なサービスを提供するため、行政が担っていた需給調整規制の廃止を打ち出した。「運輸行政の大転換」とされ、法改正により航空や鉄道、バス、タクシーといった分野で新規参入などの規制緩和が進んだ。貸し切りバスは2000年、タクシーは02年の改正道路運送法施行で参入しやすくなった。

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