カボチャで描く等価値の生 自作並ぶ「国立美術館」門司の住宅街に 

西日本新聞 もっと九州面 白波 宏野

 北九州市門司区の観光名所である門司港レトロ地区から車で約10分。閑散とした住宅街の中に、ひっそりとたたずむ洋館がある。急勾配の屋根の黄色い建物に掲げられた看板には「カボチャドキヤ国立美術館」。こんな所になぜ、国立の美術館? ちょっと怪しげな館を訪ねてみた。

 恐る恐る扉を開けると、カボチャ型の帽子をかぶった短パン姿の男性が階段を下りてきた。柔和な笑みで迎えてくれたのは館長の川原田徹さん(76)。「カボチャドキヤ王国」の国王で「トーナス・カボチャラダムス」とも名乗る。緊張はほぐれたが、謎がさらに深まった。

 居間に入るとすぐ、幅170センチほどの油彩画が現れた。海沿いにそびえる巨大なカボチャが描かれている。よく見ると、カボチャの中には市場や食堂、銭湯などがあり、人々は買い物をしたり杯を交わしたり。カボチャが一つの大きな街のようで、どこも人であふれ返り、ざわめきが聞こえてきそうだ。

 同館は、カボチャを中心に植物をモチーフにした、川原田さんの絵画や版画約100点を収蔵。幅約2メートルの大作から縦横10センチほどの小品までずらりと並ぶ。海や山に浮かぶカボチャの島、カボチャ形の大木…。次々と現れるカボチャの世界はどれも、数百もの人が窮屈なほど密集して暮らす。

 目を凝らして見ると、門司港付近に実在する食堂や市場などもちらほら。子馬が荷車を引くパンの移動販売や路上の紙芝居なども描かれており、川原田さんが幼少期を過ごした門司の昭和20~30年代の風景なのだという。

    ◇   ◇

 鹿児島市で生まれた川原田さんは戦後間もない頃、門司港近くに転居。地元の高校を経て東京大に進学したが、「生きるとはどういうことか」との悩みに苦しんだという。

 結局、大学をやめて戻った門司で夜空の下、風にそよぐ木の葉や石と自分が一つになったような感覚を体験したという。「生きる」ことのイメージが湧き、25歳ごろ絵を描き始めた。

 カボチャの形状に「もくもくと力強くて、よく見るとでこぼこ。自然そのもののエネルギーに満ちている」と感じ入り、カボチャを描くことに没頭した。いつしか画家として名をはせていた。

 2002年5月、自身の作品を展示するカボチャドキヤ国の「国立美術館」がオープンした。

 ずらりと並ぶカボチャの絵や版画には、拡大鏡がないと見えないほど細やかに無数の人々の暮らしが描かれている。「この世界には、人も植物もたくさん生きていて、すべてが等価値。だから全部描く」と川原田さん。その原風景は石炭の積み出し港としてにぎわったかつての門司で、「人がたくさん集まって活気にあふれる世界がおもしろい」と目を細める。平成生まれの記者もなぜか、昭和の風情漂うカボチャの王国を懐かしく感じた。

 同館は開館20年の節目となる22年5月に閉館する予定だ。会費やボランティアの尽力で息長く経営を続けてきたが、「余力があるうちにきれいに身を引きたい」と踏み切った。閉館まであと2年弱。繁栄した門司の活気ぶりを感じられる不思議な王国に足を踏み入れてみてはいかが。 (白波宏野)

 カボチャドキヤ国立美術館 北九州市門司区谷町2丁目6の32。開館は土曜と祝日の午前11時~午後4時。大人300円、中高生100円、小学生以下は無料。問い合わせは同館=093(331)5003。

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