「旅のつばくろ」沢木耕太郎著 

西日本新聞 下崎 千加

 体育会系でも、海外留学組でも、好成績を収めたわけでもない。親に高い学費を出させるばかりで、胸を張れるものがない私は、大学卒業を前に焦っていた。だから学生向け講演会での著者の言葉に救われた。

 4年間何も成せなかった。じたばたしただけだった。そうやって焦ることが大事なんだ。失敗や焦りも血肉になっていく」

 本書を手に取り、二十数年ぶりに思い出した。元はJR東日本の車内誌の連載だが、単なる紀行文ではなく、「過去」を行き来する。それはたいてい過ちや後悔、未熟さだったりする。

 16歳でおじけづいて諦めた竜飛崎を50年ぶりに目指すと…。金沢では元華族のインタビューに失敗した経験に思い巡らす。「旅における性善説」を信じるに至った恥じ入るような出来事も、その後の『深夜特急』を知るだけに胸を打つ。人生に無駄なものなどないのだ。(下崎千加)

「旅のつばくろ」沢木耕太郎著(新潮社・1100円)

PR

文化 アクセスランキング

PR

注目のテーマ