「不寛容」に失望募らす米有権者 「誰が勝っても分断深まる」

西日本新聞 国際面 田中 伸幸

深刻な格差や貧困… 明確な対策なく

 【ワシントン田中伸幸】米大統領選は共和、民主両党が候補を正式指名し、終盤を迎える。国民がそれぞれかたくなに正しいと信じる政策や価値観を巡り、折り合おうとしない不寛容の時代。それを象徴するように共和党トランプ大統領と民主党バイデン前副大統領の主張は激しく対立する。「誰が勝っても分断が深まるとしか思えない」(無党派の女性)。機能不全が指摘される米国政治に、有権者が期待を抱けない閉塞(へいそく)感が漂う。

 「今夜は大統領のためにある。おまえたちはさっさと帰れ」。27日夜のトランプ氏の候補指名受諾演説直前、ホワイトハウス近くで拡声器を手にしたトランプ氏支持者の白人が叫んだ。

 その場に集まっていたのはトランプ氏に抗議する黒人たち。「黙れ白人至上主義者」と言い返し、一触即発の状況となったが、警察官が制止し、暴力沙汰には至らなかった。

 この日の抗議と、人種問題へのトランプ氏の対応を糾弾する翌28日のデモに参加するため、北東部の州から遠路駆け付けたマイクさん(71)は怒りをあらわにした。「憎悪に満ちた言動を続けるトランプ追放のためバイデンに投票する」

 11月3日の大統領選に向け、対決ムードが高まる米国。「親トランプ」と「反トランプ」の対立は倫理観や価値観の面でも如実だ。トランプ氏支持の保守層は銃規制や人工妊娠中絶、温暖化対策に絡む環境規制などに猛反発。バイデン氏支持のリベラル層とは相いれない。

 最大の争点である新型コロナウイルス禍でも、マスク着用を巡り、保守層は「個人の自由」を主張。リベラル層は政府による義務化を求める。「共和、民主がここまでぶつかり合うことは30年以上なかった。間違いなく歴史に残る選挙になる」。中西部の激戦州に住む共和党関係者(58)は興奮気味に話す。

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 トランプ政権の是非を巡って世論が大きく割れる今回の選挙については、既に8割程度が投票先を決めているとの調査結果がある。

 ただ岩盤支持層を中心に4割の支持率を維持するトランプ氏であっても、保守層から全幅の信頼を得ているとは言い難い。特に物議を醸すツイッター発信には女性からの嫌悪感が強い。

 従来、共和党は「小さな政府」を志向するだけに、新型コロナ対策で現金給付などばらまき政策を打ち出すトランプ政権には「民主党のようだ」(80代男性)との不満が漏れる。

 一方、支持率でトランプ氏をリードするバイデン氏に対する民主党支持層の信頼度にも疑問符が付く。社会保障の充実など、政府の役割の大幅強化を訴える左派が党内で台頭する中、主流の穏健派はバイデン氏の左傾化を懸念。逆に、左派からはバイデン氏の改革への本気度をいぶかる声が尽きない。

 トランプ氏が前回選挙で白人労働者から支持を得て勝利したことを踏まえ、バイデン氏は雇用増など中間層を強く意識した公約を掲げる。しかし前回選挙で民主党から、トランプ氏支持に転じた激戦州の元工場労働者の男性は「公約を言うのは簡単だが、労働者政策に熱心でなかった反省が全く感じられない」と一蹴する。

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 トランプ氏は27日の演説を「米国をこれまで以上に偉大にする」と締めくくったが、2期目に向けて明快な国家像を示せずにいる。政権奪還を狙うバイデン氏にも「既存政治家だけに、変革の実現には限界がある」との批判が絶えない。そんな両氏からは、米国でも深刻な格差や貧困といった幾多の課題にどう対処していくのかというメッセージが伝わってこない。

 「どちらが勝つかも、選挙後の米国がどうなるかも分からないが、いがみ合う国民が融和に向けて折り合っていけるとはとても思えない」。中西部の郊外に住む50代の女性は大きなため息をついた。

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