拉致、経済、原発…課題積み残し 安倍首相退陣、有権者の評価割れる

西日本新聞 社会面 井崎 圭 竹中 謙輔

 「さまざまな課題にチャレンジしたが、残された課題も多々あります」。歴代最長政権の7年8カ月を振り返り、会見でこう述べた安倍晋三首相。九州・沖縄で道半ばの政策課題も少なくない。

「歴代でも特に信頼していた」

 首相の左胸にはこの日も、拉致被害者の救出を願うブルーリボンバッジが輝いていた。「在任中の解決」を誓い、被害者家族の集会に毎回参加して同じ弁当を食べていたという首相。熊本市出身の松木薫さん=失踪当時(26)=の姉斉藤文代さん(75)は「丁寧に話を聞いてくれ、歴代首相の中でも特に信頼していた。家族のように接してくれていた」と残念がった。

 経済政策「アベノミクス」を掲げ政権の推進力にした。2011年の福島第1原発事故を受け、“経済重視”で新規制基準をクリアした原発の再稼働に踏み切り、15年に全国で初めて再稼働したのは九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)。原発の設備点検などを請け負う会社を営む中間則行さん(46)=同市=は「低迷した景気を立て直した」。反原発団体の向原祥隆共同代表(63)は「事故の反省がないままに推進に立ち戻ったことは理不尽」と怒りを隠さない。

 観光政策の目玉として成長戦略の柱に据えたカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の整備は、新型コロナウイルスや汚職事件で事実上ストップ。ハウステンボス(長崎県佐世保市)への誘致に期待する地元観光コンベンション協会の飯田満治理事長は「長崎県で観光は重要。コロナ収束を見据え継続して整備に力を入れて」と注文した。

「被爆者の思いから一番遠い」

 安全保障政策では安全保障関連法を成立させ、オバマ前米大統領の広島訪問を実現させた一方で、核兵器禁止条約の批准には否定的だった。長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会の川野浩一議長(80)は「今までで一番被爆者の思いから遠い首相。ねぎらう気持ちには全くなれない」と突き放した。

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設で対立した沖縄県は揺れ続けた。昨年2月、移設を巡る県民投票を実現させた一橋大大学院生、元山仁士郎さん(28)=同市出身=は「政権は自分たちに反対する人の声を無視し続けた」と強調。反対が7割を占めた投票結果について首相は「真摯(しんし)に受け止める」と語ったが、移設工事は止まらなかった。陸上自衛隊オスプレイ佐賀空港配備計画も先行きは見えない。反対派市民グループの古賀初次会長(71)は「増え続ける軍事費に不安を感じた。後任には配備見直しをしてほしい」。

 長期政権の緩みやおごりとみられる問題も次々浮上した。北九州市と山口県下関市を新たに結ぶ「下関北九州道路」を巡り昨年、当時の国土交通副大臣が予算化に関して首相らの意向を「忖度(そんたく)した」と発言。地元財界から「流通網としても災害時の避難路としても必要」との声の一方、「国民ではなく一部の人たちだけのことを考えた政治」と振り返ったのは、建設に反対する北九州市小倉北区の青井龍夫さん(79)。辞任も「遅すぎた」と切り捨てた。

テレビ売り場でくぎ付け

 28日夕に行われた安倍晋三首相の記者会見をリアルタイムで見届けようと、福岡市内の家電量販店などではテレビ売り場で足を止める来店客もいた。

 会見を見ようと天神の店頭に立ち寄った男性会社員(53)は「良いところも悪いところもある首相だった」と感慨深げ。「森友、加計学園問題」に関する質問が出た場面でうなずき、「それまでは経済も上向き、マイナスはなかった。この問題から『忖度』が現実にあると感じ、総じて信頼できなくなった」と振り返った。

 「MrMax姪浜店」(西区)では「総理の緊急会見が始まります」と店内放送を実施。中継に見入っていた城南区の女性(53)は「具合が悪そう。新型コロナウイルス対応や東京五輪の延期など課題ばかりで疲れたのではないか」と話した。

(井崎圭、竹中謙輔)

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