安倍首相が辞意 ポスト「1強政治」へ号砲

 安倍晋三首相が持病悪化を理由に辞意を表明した。首相は記者会見で「病気と治療を抱え、大切な政治判断を誤ってはならない」などと述べた。第1次政権に続いて再び体調不良による任期途中での退陣となる。

 健康不安説が強まっていた首相だが、約7年8カ月に及ぶ在職日数記録を更新したばかりの「1強最長政権」のあっけない幕切れには驚きを禁じ得ない。

 とはいえ、新型コロナウイルス対策を筆頭に内政、外交とも重要課題を抱えており、国政の停滞は許されない。自民党は速やかに後継総裁を選び、連立を組む公明党とともに新首相による内閣を発足させるべきだ。

 来年10月には衆院議員の任期満了を迎える。新内閣は次の総選挙までを担う選挙管理内閣の性格を帯びざるを得まい。ほぼ1年以内には確実に実施される次期衆院選で民意を問うことを通じて、本格的な新しい政権を目指すことになろう。

■安定とゆがみの明暗

 「一寸先は闇」といわれる政界の格言を地で行くような展開だろう。首相は今月24日に連続在職日数で大叔父の佐藤栄作元首相を抜き歴代1位となった。同じ日に都内の病院で2週連続となる検査を受け、それを機に首相の健康問題が政局の不透明感を一気に増幅させた。首相は「この検査で(辞任を)判断した」といい、振り返れば皮肉な巡り合わせと言うほかない。

 首相は第1次政権が約1年の短命に終わり、旧民主党政権も含めて6人の首相が1年前後で交代する端緒となったことを「悔やんでも悔やみきれない」と述懐していた。この失敗と教訓が次の飛躍のばねとなる。

 再チャレンジと銘打った第2次政権は「アベノミクス」の旗とともに経済再生を最優先に掲げ、国民の支持を広げていく。

 得意とする「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」で各国首脳との連携も深めた。長期政権ならではの「政治の安定」がもたらす成果と評価できるだろう。

 他方で、特定秘密保護法集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法など世論や野党の反対を「数の力」で押し切る強引な政治手法も際立った。

 忖度(そんたく)の流行語を生んだ「森友・加計(かけ)学園」問題や首相の公私混同が問われた「桜を見る会」の疑惑、公文書の改ざんや隠蔽(いんぺい)に象徴される「官の不正」は、長期政権の明らかなゆがみと指摘せざるを得ない。

■揺らぐ政権の座標軸

 「コロナ禍」は首相にとって想定外の逆風だったのだろう。観光支援事業を巡る混乱など政府のコロナ禍対応に対する国民の不満は強い。それは抜群の安定感を保っていた内閣支持率で不支持が支持を上回る逆転現象となって政権を直撃した。

 首相の「政治的レガシー(遺産)」となるはずだった東京五輪・パラリンピックの1年延期は政権の座標軸を揺るがした。北朝鮮による拉致問題の解決、ロシアとの交渉による北方領土返還、悲願の憲法改正と、長期政権が思い描く政治目標はことごとく「未完」に終わった。「痛恨の極み」という首相の言葉は決して過言ではあるまい。

 新首相の座に直結する自民党総裁の後継選びは、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長、菅義偉官房長官らを軸に展開すると予想される。

 新総裁は1強と呼ばれた長期政権を引き継ぎ、来秋までに衆院解散・総選挙の決断を迫られる。選挙管理内閣で終わるか、本格政権へ歩を進めるかは国民の審判で決まる。

 折しも野党は立憲民主党と国民民主党の合流を軸に新党を旗揚げする運びだ。現実的な政権交代の選択肢となり得るのか。野党も真価を問われよう。

 コロナ禍をどう克服し、ポスト「コロナ」の未来像をどのように描くか。政界でポスト「1強政治」への号砲が鳴った。

関連記事

PR

PR