自民派閥探る「勝ち馬」 政策論より「選挙の顔」 ポスト安倍号砲

西日本新聞 一面 郷 達也

【激震 安倍首相辞任】(上)

 安倍晋三首相の電撃的な辞任表明から一夜明けた29日昼すぎ。都内のホテルに集まっていた報道陣がざわついた。「ポスト安倍」候補の一人、自民党の岸田文雄政調会長と、老練な政治技術で政権を支えてきた実力者の二階俊博幹事長が、同時間帯に現れたのだ。さほど親密な仲ではないとされる2人が、総裁選へ向けて急接近か-。

 後に岸田氏は秘書らとの打ち合わせ、二階氏は大島理森衆院議長との会合と、それぞれ別行動だったことが判明したのだが、ニアミス一つで臆測が駆け巡る水域に永田町は入りつつある。

 土曜のこの日、表向きの会合を開いたのは石原派。総裁選の情勢を慎重に分析したが、誰を推すかは結論を持ち越した。幹部は「派閥として一致団結する。何より時間がない」。夜に入っても、国会近くのホテルでこの幹部と二階氏がひそかに会食するなど、派閥間の情報収集が続いた。

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 有力候補をけん制する駆け引きも幕を開けた。

 過去3回の総裁選経験がある石破茂元幹事長は、首相と「険悪な関係」で党内支持基盤は心もとないが、世論調査では高い人気を誇る。今回も意欲を燃やし、国会議員票と同数の394票を割り当てられる党員・党友投票でリードを奪うのが基本戦略だ。

 だが、党執行部は「緊急事態で時間をかけられない」との建前で、党員投票を省く方針。これを露骨な「石破つぶし」とみる若手議員らから「投票の権利を奪うのは党員への裏切り。『密室の総裁選』との批判を招く」と反発の声が上がっている。一方、自身の派閥内には形勢不利とみて「出馬を見送り『次』を狙った方がいい」と石破氏に勧めるメンバーもおり、その足元は混沌(こんとん)としている。

 前回総裁選で首相の3選を支持し、「禅譲」路線を目指す岸田氏は、自ら率いる岸田派と首相出身の最大派閥・細田派、麻生太郎副総理兼財務相が領袖(りょうしゅう)の麻生派の3派をまとめて一気に流れをつくろうと模索する。政権の「番頭格」で最近、首相からの信任が一層高まっているとされる菅義偉官房長官も待望論が強い。

 首相は28日の記者会見で、「総裁選に影響力を行使しようとは全く考えていない」と明言したものの、水面下で後継指名する場合は、2人のうちどちらかを選ぶことになりそうだ。

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 小選挙区と政党交付金の制度の定着を背景に、公認権とカネ、人事を握る党執行部の求心力は極まった。派閥間の権力闘争が影を潜めるのと逆に、総裁・総理は「自民党、日本の『顔』であり、選挙に耐え得る、国民の支持が集められる確信がなければ担げない」(二階氏)存在に。国政選挙に6連勝し、約7年8カ月間もの第2次政権を築いた「安倍1強宰相」は、一つの完成形として君臨した。

 その恩恵が消え、動揺を隠せないのが選挙に不安を抱えた「安倍チルドレン」と呼ばれる2012年衆院選の初当選組。「おかしいと思うことがあっても、上に物が言えず情けない」(3期生)。自身の生き残りを懸け、総裁選に自由闊達(かったつ)な政策論争を求めるのではなく、勝ち馬を見極め乗り遅れまいとする党内政局が激しくなっていく。 (郷達也)

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 「ポスト安倍」レースの号砲が唐突に鳴らされた。思惑が入り乱れる与野党、巨大な主人を失いさまよう官邸官僚はどこへ向かうのか。

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