憲法「お手盛り」運用、罰則なく 無力さあらわ

西日本新聞 社会面 鶴 善行 一瀬 圭司

【最長政権 私の採点】南野森九大教授

 お堅い「憲法本」が、インターネット通販大手アマゾンの書籍ランキングで1位を獲得したことがあった。人気作家東野圭吾さんの小説を抑えて。2014年7月、政府が集団的自衛権の一部行使を容認する閣議決定をして世論は真っ二つ。かつてなく憲法に注目が集まっていた時期だった。

 その本は、九州大の南野森(しげる)教授(憲法学)がアイドルと共著した「憲法主義-条文には書かれていない本質」。「講演や取材依頼が増え、生活が一変しましたね。国民の憲法への関心が高まり、歴代政権にない貢献ですよ」と南野教授。6万5千部売れた。今も福岡市・天神の大型書店には300冊超の多様な「憲法本」が並ぶ。

 安倍晋三首相にとって憲法改正は、祖父・岸信介元首相から受け継ぐ宿願。自民党の党是でもある。だけど、やることはころころ変わり「論点変えすぎで一貫性なく、正しくもない改憲論だった。最初から『9条改正』と訴えていたら立派だったのに」とバッサリ。

 まず着手した、憲法改正の発議要件を緩和するための96条改正は憲法学者から「裏口入学」との批判を浴びて“撤回”。次は憲法解釈の変更を目指し、14年には歴代政権が憲法上許されないとしてきた集団的自衛権の一部行使容認を閣議決定した。「最終的に問題ない。個別的自衛権に収まる見事な落としどころ」とする一方、15年の安全保障関連法は「ペルシャ湾まで行って『ドンパチ』すると答弁している。完全に集団的自衛権の行使でアウト」と判定した。

 さらに問題視するのは、17年の憲法記念日(5月3日)の発言。首相は突如、9条に自衛隊を書き加える「加憲論」をぶち上げ、自民党は自衛隊明記を盛り込んだ4項目の改憲案をまとめた。

 「9条以外、本当に必要なものってない」と切り捨て、こう結んだ。「とにかく変えたい。改憲が自己目的化した、極めて例外的な政権だった」

   ◇   ◇

 「国務大臣、国会議員は憲法を尊重し擁護する義務を負う」(憲法99条)。首相も憲法に縛られているのに、ないがしろにする振る舞いが目立った。

 衆院か参院のいずれかで総議員の4分の1以上の要求があれば「内閣は臨時国会を召集しなければならない」(同53条)。野党が安保関連法と森友、加計(かけ)学園問題で臨時国会召集を求めても、政権は数カ月“無視”。「2回は明らかな憲法違反をした。非常に恐るべきこと」と語気を強める。

 憲法に罰則はない。「最高法規でも、権力者が本気で踏みにじれば無力ということがあらわになった」

 首相は14年と17年に衆院を解散して勝利し、政権基盤を強化して長期政権につなげた。「時の権力者が好きな時に衆院議員をクビにして解散できる。与党と野党の力関係をいびつにするし、おかしいんですよ」。最長政権の教訓は「国民が監視しないと、罰則もなく、政治家は好き放題する」ということかもしれない。

 今後、憲法はどこへ行くのか。南野教授より若い研究者では改憲派が多く、自身も改憲を否定しない。問題は必要性と手続き。「ちゃんとした政治家が必要性を丁寧に説明しながらやれば、あるんじゃないですか」

 (鶴善行、一瀬圭司)

   ◇   ◇

 7年8カ月に及ぶ最長政権は終焉(しゅうえん)を迎える。成し遂げたこと、残った課題は何か。社会はどう変わったか。九州・沖縄の現場から、一家言ある人たちに「採点」してもらう。

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