利用者に負担、抵抗感も…国の特例に現場は混乱 介護報酬の増額

西日本新聞 一面 竹次 稔 黒田 加那

高齢者 同意なら負担増加

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、利用控えや対策費の負担にさらされる介護事業所を支援する特例措置を巡り、現場で混乱が生じている。3密を避けるため、ただでさえ以前のような介護サービスに限界がある中、利用者である高齢者に負担増を強いる仕組みになっており、戸惑いは大きい。経営難に陥る事業所は少なくないが、「説明しづらい」として特例を活用しないケースもある。

 特例措置は、厚生労働省が6月1日付で通知。介護保険制度通所介護デイサービス)や通所リハビリテーション(デイケア)などで、実際に提供したサービスより長時間分の報酬を得られる。利用者の同意が条件だ。

 例えば、要介護3の高齢者がデイサービスを1日「6時間以上7時間未満」利用した場合、報酬を計算する際は2時間長い「8時間以上9時間未満」と見なす。1カ月に12回通ったとすると、その4回分の上乗せを可能とした。

 それにより、事業所の介護報酬は4回で4720円増える計算で、仮に同じ事例の利用者が30人だと月約14万円の増収となり、クラスター(感染者集団)を防ぐための対策費に回せる。

 利用者の多くは1割負担なので、負担増は月472円。9割分は同制度の保険料と公費で賄われる。

施設側 利用者に不平等も

 慢性的な人手不足や新型コロナの影響で、介護事業所の経営は厳しさを増している。

 北九州市の公益財団法人・健和会の場合、グループが運営するデイケアサービスなどを約280人が利用しているが、4~6月、前年同期比で約15%減収となった事業所もある。特例は事業継続に追い風となる。

 問題は、利用者の同意取り付けだ。健和会のケアマネジャー、今野裕子さんは「利用者から仕組みが分かりにくいと言われ、ようやく同意してもらったこともある」と明かす。同意の有無で、同じ施設内の利用者でも支払いの不平等が生じる問題も指摘する。

 同市内の複数の事業所によると、感染症対策の一環で、包丁を使う調理体験やカラオケ、散歩や外食といった外出などが制限され、介護のサービスレベルが以前より下がっている面もあるという。「その上、利用者にさらに負担を強いることに抵抗感がある」

 一方、特例を使わない事業所も。福岡市南区のデイサービス事業所は「複数の事業所を併用する高齢者もいる。われわれだけ負担増をお願いするのはやりにくい」と話す。感染の再拡大で今後、利用控えが多くなれば「特例の活用は避けられなくなる」という。

識者「税財源で減収対策を」

 厚労省は「批判的な意見は承知しているが、事業所が行う感染症対策の恩恵を利用者も受けている。国として、最も早く経営支援できる手法だった」と理解を求める。特例をいつまで続けるかは未定という。

 長野県飯田市は8月から「特例を使えていない事業所がある」とし、独自に特例分の補助金を事業所に支給する事業の実施を決めた。「利用者にも説明しづらい制度で、支援が必要と判断した」(長寿支援課)。

 東洋大の高野龍昭准教授(高齢者福祉論)は「国の素早い対応は評価するが、介護報酬は要介護状態に応じて必要となったサービスに使うもので、事業所の減収対策に回すのは筋違い。税財源に切り替えるべきだ」と指摘する。

 1割負担で利用できるサービスの上限額は要介護のレベルごとに決まっており、特例を活用した場合、利用者の負担が大幅に増える場合もある。高野准教授は「介護を必要としている人がさらに利用を見合わせることになりかねない」と懸念している。 (竹次稔、黒田加那)

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