アベノミクス 光と影しっかり見定めよ

西日本新聞 オピニオン面

 経済政策「アベノミクス」を掲げ、7年8カ月前に再登板した安倍晋三首相。憲政史上最長を誇る政権ながら、最優先課題と位置付けた経済再生は果たせぬままの退陣となる。

 円高とデフレ不況に長く苦しんだ日本経済が第2次安倍政権下で好転したのは確かだ。発足と同時に始まった景気回復は戦後最長に迫る71カ月に及び、企業業績は過去最高水準まで改善し、株価も大幅に上昇した。

 半面、賃金はほとんど上がらず、国民一般の生活が上向いた実感は乏しい。景気回復の恩恵は大企業や富裕層に偏っていたと言わざるを得ない。後を継ぐ政権はアベノミクスの光と影をしっかりと見定めるべきだ。

 大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略で、デフレを脱却し経済を成長軌道に乗せる。これがアベノミクスの狙いだった。「三本の矢」と称したが、実態は1本目の金融政策頼みとなる。

 首相は就任早々、日銀に物価上昇率目標2%とその早期達成をのませた。気脈を通じる黒田東彦総裁が2013年4月、異次元と銘打つ金融緩和に踏み切る。国債や上場投資信託(ETF)の大量購入による資金供給で円安と株高の流れができた。

■異次元緩和に弊害も

 筋書き通りだったのは最初だけだった。黒田総裁が明言した2年程度での物価上昇率目標は達成できず、総裁任期が終わる23年4月まで見通しても絶望的な状況だ。金融緩和政策の限界が浮き彫りになっている。

 2本目の矢である財政政策も同様だ。「アベノミクスのエンジンを最大限吹かす」と景気対策を重ね、財政を一段と悪化させた。普通国債残高は安倍政権下で250兆円以上増え1千兆円近くに積み上がった。

 日銀による国債の買い支えが財政規律の緩みを招いた。財政法が禁じた日銀による国債の直接引き受けに近づいている、との指摘もある。円の通貨としての信認が揺らぐリスクを抱え込んでいる格好だ。異次元金融緩和の出口戦略を政府と日銀は真剣に考える必要がある。

 金融緩和の弊害はまだある。マイナス金利政策の長期化で地域経済を支える金融機関が体力を奪われている。要注意だ。

 金融、財政の両面でてこ入れしても経済成長率は伸びなかった。13年度こそ実質2・6%と比較的高めだったものの、19年度までの平均は実質1%程度にとどまる。新型コロナウイルスの影響で20年度は過去最悪のマイナス成長に陥る見込みだ。

 首相自身も広がる格差への批判を意識していたが、「景気回復の風を全国津々浦々、中小・小規模事業者の皆さんにお届けする」(17年の施政方針演説)との言葉は空手形となった。

■成長戦略の再構築を

 失速した最大の要因は何か。要となる成長戦略が十分に機能せず、成長と分配の好循環を描けなかったからだ。規制緩和や構造改革による生産性の向上は進まず、次々に繰り出した成長戦略も看板倒れに終わった。

 首相は軌道修正を図ろうと、15年に唐突に「新三本の矢」を打ち出した。「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」からなり、名目国内総生産(GDP)600兆円、希望出生率1・8、介護離職ゼロを目標に据えた。野心的な目標設定ではあった。ただ「三本の矢」ほどのインパクトを国内外に与えることはなかった。

 政権最大の功績ともされる雇用指標の改善も後戻りしつつある。非正規など不安定な雇用が増え、コロナ禍で失業者や休業者が増えているためだ。収束後は産業構造の転換が避けられない。企業の成長と暮らしの底上げを両立できる成長戦略の再構築が求められる。

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