「家族自身で守るしか…」医ケア児、求められる“最低限の避難先”

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

医ケア児避難・北九州の挑戦 (下)

 災害時の避難対策を皮切りに、医療的ケア(医ケア)が必要な子どもや家族の支援に官民で乗り出した「北九州地域医療的ケア児支援協議会」。協力する医療や福祉の施設、事業所などでつくる「ネットワーク連絡会」とともに、新たな共助の形を模索している。

 停電対策念入りに

 「自分たち家族自身で身を守るしかないと考えています」。協議会のメンバーが企画し、産業医科大で8月8日に開かれた災害支援を考えるシンポジウム。当事者家族の桝田悠葵(ゆうき)さん(40)=福岡県水巻町=は淡々と語った。肢体が不自由な長男(5)は頻繁にたん吸引が必要で、胃ろうから栄養注入する。体温調整が難しいため空調は欠かせず、夜は人工呼吸器も使う。

 「自助の力を身につけよう」と覚悟したのは、相次ぐ豪雨に不安を感じ、保健師を通じて地域の避難所の環境を聞いたところ「電源が確保できず、空調もなかった」のがきっかけ。必要な場合、自治体が2次的に開設することになっている高齢者や障害者向けの福祉避難所も遠く、「必要な設備が、必ずしも使えるわけではないと分かった」。

 自宅は川沿いにある。「簡単に移動できない」ため2階建てを新築。停電に備えて太陽光発電装置を付け、マイカーも電気自動車に。車の蓄電池から家に電気を引く設備も購入した。

 日常的に使う複数の医療機器類や備品はもう一組、2階にも用意。ライフラインが途絶えた場合も考え、3日分の食料や物品をスーツケースやバッグに詰めている。雨や浸水に備えて一つ一つポリ袋で封をし、中身は毎年、梅雨前に点検することにしている。

 避難を迫られたら、車で約20分離れた高台の親族宅を「一時的な避難先」と考えてはいる。でも-。「もう少し身近に気軽に行ける適当な場所があれば、障害があっても避難しようという気持ちになれるのでは」

 提供に8割前向き

 こうした家族の「最低限の避難先」として協議会が想定し始めたのは、屋内で一定程度のプライベート空間と電源が確保できる場所。ホテルや企業の会議室など、協力を得られれば幅広い施設や事業所も候補となり得る。国がバリアフリー設備や専門の支援スタッフの配置も求めている福祉避難所に比べ、ハードルも低い。家族の自宅に近ければ移動の負担も少しは軽くなる。

 今年2月の連絡会に参加した121人にアンケートしたところ、回答者81人のうち、避難場所の提供については約8割、移動のための支援には約5割が「協力できそうだ」と回答した。シンポジウムでは、北九州市障害者支援課の篠原愛子係長が調査結果を公表。人工呼吸器などを使い、浸水想定区域などに住む医ケア児(10人)の家族について、一時的に受け入れできないか、協力を呼び掛け始めたことを明らかにした。

 ただ2月以降に新型コロナウイルスの感染が拡大。ある福祉施設に打診したものの、感染対策などを理由に「利用者以外の受け入れは厳しい」と難色を示されたという。今後はモデル的に1家族について実際に避難訓練も行い、検討を進める。篠原係長は「くじけることなく、避難先の確保に努めていきたい」と語る。

 楽しんで移動訓練

 8月30日夜。桝田さん一家は他の医ケア児8人の家族とともに同市の「到津の森公園」にいた。動物園の夜間営業に合わせ、小児の訪問看護ステーション「にこり」(同県岡垣町)が企画した“夜の移動訓練”。代表の松丸実奈さん(42)は協議会のメンバーでもあり「夜に出かけることが不慣れな家族が多いので、災害時も想定し、園内散策を楽しみながら移動を実体験し、自助の力を伸ばす意識を持ってもらえたら」と考え、利用者家族に呼び掛けて実現したものだ。

 家族はそれぞれ、大きな車いすにたんの吸引器などの医療機器や飲料水、携帯電灯などを載せて参加。暗い中でのケアの手順や、限られた園内の電源、トイレの使い勝手などをチェックした。「思ったより蒸し暑く、水分補給をこまめにするなど注意点があらためて確認できた」(桝田さん)

 にこり側もスタッフ5人が万が一に備え、救命用の医療機器やペットボトルを準備して見守った。災害時、自力では移動が困難な利用者の支援も視野に入れている。「必要な職員の人数や、具体的にどんな配慮や支援が求められるのか、検証する狙いもあった」と松丸さんは言う。「事業所単位でも、命を守る方法は考えられる。小さな試みでも、それが広まれば、医ケア児家族を地域で支えていく大きな力になるのでは」

 災害時に配慮が必要な人はもちろん医ケア児だけではなく、どこの地域にもいる。障害の種類や住む場所、年齢に限らず、支えの手が届くように-。協議会に携わるメンバーすべての思いだ。 (編集委員・三宅大介)

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