「誤嚥」と向き合う介護現場 安全と満足、どう支える?

 高齢者の誤嚥(ごえん)のリスクと隣り合わせの介護現場。長野県の特別養護老人ホーム(特養)で入所者がおやつを食べた後に死亡した事故を巡る裁判で、配膳した准看護師の逆転無罪が確定。現場の萎縮を懸念する福祉関係者からは安堵(あんど)の声が上がった。安全を確保しながら高齢者の生活の質をどう保障するか。奮闘する現場を訪ねた。

 「もし有罪だったら介護は危険性を伴う仕事というイメージが広がっていた。無罪は率直にほっとした」。福岡県老人福祉施設協議会の永原澄弘会長は裁判の結果を受けてそう話した。

 公益財団法人「介護労働安定センター」(東京)が昨年10月に実施した調査によると、介護従事者2万1585人のうち過去1年間で業務上の事故があったのは22・6%、事故になりかける「ヒヤリハット」を経験したのは56・4%だった。

 背景には介護人材の不足がある。永原会長が運営する同県赤村の特養「青楽園」では要介護3以上の入所者約30人に対し職員は13人。国の基準(入所者3人に対し職員1人以上)は満たすが「職員1人が受け持つ入所者を2人以下にしないと余裕ある介護はできない」。同センターの調査でも全国の介護事業所約9千カ所のうち65・3%が人手不足と感じていた。

 永原会長はその原因を「不十分な介護報酬」と訴える。厚生労働省によると、介護職員の給与は月額22万9700円(昨年6月、残業代を除く)で、全業種平均30万7700円(同)を約25%下回った。

 淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)は「事故は個人ではなく組織や社会の責任。十分な人員を確保できるよう国は財源を確保すべきだ」と指摘する。

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 今回の判決は食事やおやつの提供が「精神的な満足感や安らぎを得るために重要」と言及した。結城教授は「介護は生活の質も大切だと裁判所が認めたことは大きい」と評価する。

 安全な食事と高齢者の満足感をどう両立するか。福岡県広川町の介護老人保健施設「舞風台」(100床)は普通食と変わらない見た目で安全に食べられる高齢者向けのソフト食を2014年に導入。入所者の嚥下(えんげ)機能を5段階に分け、食材や調理法を変えている。

 ソフト食は宮崎市の管理栄養士黒田留美子さん(70)が1990年代後半に考案し、全国に広まった。さまざまな工夫で食べ物が口の中でバラバラにならず、かまなくても上顎と舌で押しつぶして食べられる。

 取材に訪れた日の昼食は鶏肉のつくね煮。記者もいただいたが、かまずにむせることなくのみ込めた。普通のつくねと変わらず、おいしい。入所者の女性(101)は「毎日の食事が楽しみ」とほほ笑んだ。 (梅本邦明)

 ◆特養おやつ死亡事故 

 長野県安曇野市の特別養護老人ホームで2013年、入所者の女性=当時(85)=がおやつのドーナツを食べた後に死亡した事故を巡り、配膳した准看護師が業務上過失致死罪に問われた。一審は過失を認めて罰金20万円の有罪としたが、二審の東京高裁は今年7月、女性がドーナツを食べて窒息する危険性は低く死亡の予見可能性も低かったとして無罪を言い渡した。

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