軽妙洒脱小波の俳画 鶴丸哲雄

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 菊池寛、谷崎潤一郎、竹久夢二…。大正から昭和に活躍した文豪や画家が子どもだったころ、彼らを夢中にさせた大人がいた。今年が生誕150年の児童文学者巌谷小波(いわやさざなみ)。

 小波は1891年に日本初の創作童話「こがね丸」を発表。続いて、子どもを対象にした文芸作品を表現する言葉すらなかった明治中期に「お伽噺(とぎばなし)」というジャンルを掲げ、児童向け文芸集「日本お伽噺」などの出版を始めた。桃太郎に浦島太郎。舌切り雀(すずめ)に猿蟹(さるかに)合戦。今も読み継がれる古典的な童話の大半が、この時に小波が初めて体系立てて世に広めたものだという。

 そんな小波の魅力を九州から発信する韓国人女性がいる。大分県玖珠町にある久留島武彦記念館の館長、金成妍(キムソンヨン)さん(41)。九州大大学院の留学生のころ、「日本のアンデルセン」と称された久留島を研究。文献を探していた神田の古本屋で、久留島の先輩格の小波が描いた「俳画」に出合い、魅せられた。

 俳画とは、単純に言えば俳句が添えられた絵。俳句が世界で最も短い定型詩であるのと同様に、一墨一彩を極限まで省略して描き、絵と句に妙味がなければいけないとか。小波の俳画は人気で、童話の口演先では1週間に600枚の注文が殺到したという。

 その作品は軽妙洒脱(しゃだつ)で味わいたっぷり。「桜咲く 日本に生(うま)れ 男かな」の句にはすっくとした春駒の絵が。きねを手にしたウサギの絵には「長者なら 雲買(かい)占めよ けふの月」の句。「口演先で地元の有力者と月見の宴の最中、月を隠す雲が出て『お金持ちならこの雲を買い占めてとっぱらってくれよ』と皮肉ったのでしょう」(金さん)

 金さんのお薦めは関東大震災後の作品=写真(金成妍さん提供)。灰をまく花咲かじいさんの絵に「枯木にも 復興の花 さかせけり」の句を重ねた。天災の多い今の時代にも胸に響く。

 金さんが集めた小波の俳画22点が9日から久留島武彦記念館で公開される。「ユーモアとウイットに富み、生命力あふれる」(金さん)小波俳画の魅力に触れてみては。

 ちなみに「♪あーたまをくーもーの…」で始まる唱歌「ふじの山」の作詞も小波。きょうが87回目の命日である。

 (くらし文化部編集委員)

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