改憲論議の頓挫 禁じ手連発のつけは重く

西日本新聞 オピニオン面

 国政選挙で連勝を重ね、憲政史上最長の政権を築きながら、安倍晋三首相が悲願とする憲法改正への道は遠かった。改憲論議が頓挫した根本原因は何か。安倍後継を争う自民党総裁選を前に改めて指摘しておきたい。

 立憲主義の軽視-。自身の信条から改憲にはやる首相は、禁じ手もいとわぬ独善的な姿勢に陥り、肝心の民意が改憲を後押しする機運は広がらなかった。

 それは辞任表明直後に共同通信が行った世論調査でもあぶり出された。次期内閣が取り組むべき優先課題は何か(10項目から二つまで選択)を尋ねたところ、コロナ対策が最多で7割、次いで景気・雇用3割、年金・医療・介護2割と続き、改憲は1割以下の9番目だった。

 過去の世論調査では改憲の賛否自体は拮抗(きっこう)し、賛成が反対を上回ったこともある。ただ「安倍政権下での改憲」には一貫して反対が賛成を上回るなど、首相への不信感は根強かった。

 首相は第2次政権発足後、憲法96条の改正を唱えた。改憲の発議を国会議員の「3分の2以上」とした要件を「過半数」に引き下げる案だった。これが大反発を浴びるや、首相は「解釈改憲」という別の禁じ手に走った。歴代政権が違憲としてきた集団的自衛権の行使を一内閣の独断による閣議決定で容認した安全保障関連法の制定だ。

 さらに国防軍創設などをうたう自民党改憲草案は棚上げし、9条への自衛隊の存在明記、参院選の合区解消、緊急事態条項新設-など4項目を「手始めの改憲案」として提示した。これもご都合主義との批判を招き、国民の理解は広がらなかった。

 「改憲の発議は国会議員しかできない。故に改憲は国会の責務だ」という首相の訴えは、そもそも乱暴だろう。憲法は国家権力を縛るものだ。国会議員の基本的な役割は、憲法の理念が生かされるよう政治を監視し、一般法の制定や改廃を進めることだ。首相はこの立憲主義の原点を見失ったのではないか。

 政治の暴走や官僚の相次ぐ不正に着目するなら、改憲によって国家権力に一段と歯止めをかける議論も必要だ。そうした認識が欠落した点も見逃せない。

 総裁選に名乗りを上げた菅義偉官房長官石破茂元幹事長、岸田文雄政調会長の3氏は主張に濃淡こそあれ、引き続き改憲を目指す立場は同じだ。ならば首相の路線がつまずいた原因をどう捉え、議論をいかに仕切り直すのか。民意と謙虚に向き合いながら、独善を排し説得力を持つ改憲理由を語ってほしい。

 安倍政治が残したつけは総裁選に重くのしかかっている。

PR

社説 アクセスランキング

PR

注目のテーマ