「拉致」が解決していない

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 政治家というのは結果で全てが問われるのであり、努力を評価される仕事ではない。それを大前提にして今回の話を進めたい。

 安倍晋三首相が病気を理由に退陣を表明した。健康を損ねることは誰にでもあるし、それで首相としての職責を果たせなくなったのは誠に気の毒である。

 ただ、安倍氏は第1次を合わせれば通算8年8カ月、政権復帰してからも7年8カ月首相の職にある。通算でも連続でも歴代最長である。最初に公約したことをやるだけの時間はここまでに十分あったはずだ。

 病気退陣への同情とは別次元で「やると言ったのにやらなかった」ことへの批判はあってよいだろう。

 安倍氏は北朝鮮による拉致問題を解決しないまま、首相の座を退こうとしている。これは拉致被害者家族を落胆させたのはもちろんだが、「解決」との公約を信じた国民に対しても大きな背信行為ではないのか。

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 まだ日本で拉致問題が知られていなかったころから、安倍氏は被害者家族と共に活動し、拉致を国民的な問題に位置付けた。小泉純一郎首相(当時)が北朝鮮に乗り込んで金正日(キムジョンイル)総書記(同)に拉致を謝罪させ、被害者5人の帰国に導いたのも、安倍氏が拉致問題を重要な政治テーマに押し上げていたからだ。ここまでの安倍氏の功績は大きい。

 安倍氏は2012年の総選挙で「拉致問題の完全な解決」を掲げた。これまでの関わりに加え「日本を取り戻す」という強い外交姿勢をアピールする安倍氏に国民は「安倍さんなら解決してくれるのでは」と期待。その期待感が政権奪還の原動力の一つとなった。

 安倍氏は拉致問題を「政権の最重要課題」と言い続けた。北朝鮮が再調査を約束した日朝ストックホルム合意、米朝首脳会談などの動きもあった。しかし、水面下の交渉具合は不明にせよ、安倍氏の首相在任期間中、拉致問題は表向きはほとんど前進していない。「首相としての実績」には首をかしげざるを得ない。

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 退陣会見で安倍氏は、拉致の未解決を「痛恨の極み」としながらも、自分が尽力した結果として「トランプ米大統領習近平中国主席、文在寅(ムンジェイン)韓国大統領が北朝鮮との会談で拉致問題に言及するようになった」と語った。しかし「人に言及してもらった」のを成果と誇るのは無理がある。

 もちろん、ここまで解決できない最大の理由は、北朝鮮の政権が不誠実なことにある。中国が北朝鮮に対し十分な締め付けをしなかったのも一因だろう。しかしいずれも、初めから分かっていたハードルである。外的要因は多々あるにせよ、結局安倍氏は小泉氏ほどの突破力を持ち得なかったということになる。

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 このままでは将来、安倍氏は「歴代最長の任期を務めながら、拉致問題を解決できなかった首相」として位置付けられるだろう。

 安倍氏に勧めたい。体調が回復し次第、新内閣の拉致担当大臣を自ら志願してはどうか。そして拉致問題が解決するまで、内閣が代わってもずっと担当大臣として北朝鮮や関係国との交渉の指揮を執るのである。それが「この人なら解決してくれる」という期待を抱かせた政治家の責任の取り方ではなかろうか。

 (特別論説委員・永田健)

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