総裁選独自色に必死 急転「ポスト安倍」へ 試される発信力

西日本新聞 総合面 一ノ宮 史成 湯之前 八州 河合 仁志

 自民党総裁選は8日告示され、立候補を届け出た石破茂元幹事長、菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長の3人が所信を表明した。主要派閥のみこしに乗る菅氏が盤石の態勢を築く中、コロナ禍で街頭演説の機会もない短期決戦。史上最長政権の光と影にどう向き合うのか、それぞれ国民への発信力も試される選挙戦がスタートした。

庶民派強調、狙う地方票 菅義偉氏

 「卓越した指導力と判断力に改めて最大限の賛辞を贈りたい」。菅義偉官房長官は8日、党本部での演説を安倍晋三首相への礼賛から始めた。経済再生や全世代型社会保障新型コロナウイルス対策…。「女房役」として首相と二人三脚で取り組んだ政策を列挙し「しっかり継承し、さらに前に進めたい」。いつも選挙の際に着用する黄色のネクタイ姿で力を込めた。

 「安倍後継」を前面に押し出し、自身が緊急登板する必要性を訴えるのが基本戦略だ。その中で周囲との違いを際立たせるアピール材料がもう一つ。「庶民派」の経歴だ。演説では「私の原点」と切り出し、2日の出馬会見でも語った「たたき上げ」のエピソードを披露した。高校卒業後に秋田から上京。横浜市で国会議員秘書を務め、市議、国会議員、官房長官へと上り詰めた半生を語った。「私のような普通の人間でも総理を目指せる。まさにこれが日本の民主主義」。庶民派の経歴は「世襲の石破、岸田両氏にはない大きな武器」(陣営関係者)となり、地方票を引き寄せる。

 長らく裏方として実務を担ってきただけに、手掛けた政策も国民生活に身近な分野が多い。演説では自身の実績として携帯電話料金の値下げや「ふるさと納税」創設を並べ、東京都の迎賓館の一般公開日を増やしたことまで触れた。

 ただ目線の低さの裏返しで、政治家としての世界観、歴史観、国家観に物足りなさは否めない。目指す社会像は「自助・共助・公助」と述べたものの、外交・安全保障や経済政策の考え方については演説会後の共同記者会見でも、官房長官の定例会見のように公式見解を繰り返す「安全運転」に終始した。

 自身も想定外の後継レース。巨大なみこしはできたが、トップリーダーになるための準備不足も露呈。陣営幹部は「今はしょうがない」と漏らす。 (一ノ宮史成)

安倍路線の転換前面に 石破茂氏

 石破茂元幹事長は安倍路線の「転換」を前面に打ち出した。長期政権のマンネリを打ち破る覚悟を示し、リードを許す菅義偉官房長官の「継承」との違いを際立たせ、頼みの地方票を掘り起こす狙いがある。

 「成し遂げたいのは『グレートリセット』。この国の設計図を変えていく」。石破氏は党本部での演説会で、社会・経済構造の変革を訴えた。憲法改正では安倍晋三首相が主導した党改憲4項目ではなく、自身が携わった2012年の党改憲草案を「もう一度読もう」と提唱。共同記者会見時は河井克行前法相夫妻による買収事件に関し、タブー視されている党本部の責任に言及して踏み込んだ。

 午前の出陣式に集った議員は石破派や、無派閥の中谷元・元防衛相ら約20人にとどまった。石破派の閣僚経験者は「安倍政権批判を強めるほど、逆に票を失いかねない」とジレンマも吐露した。 (湯之前八州)

曖昧な主張首相に配慮 岸田文雄氏

 岸田文雄政調会長の語り口には、友人であり、頓挫した政権禅譲シナリオも共有した安倍晋三首相に対する立ち位置の説明に苦しさ、曖昧さがにじんだ。

 党本部の演説会で岸田氏は、英経済誌による「輝かしいレガシー(政治的遺産)を残した」との首相評を引き、「かつて日本でここまで海外から評価された総理があっただろうか」と賛辞を贈った。一方で、「国民の声を丁寧にしっかり聴き、それをエネルギーに変える力を再確認しないといけない」とも。「敵」と見なした相手と対話せず、徹底して攻撃した首相の政治姿勢とは一線を画すメッセージを込めた。

 陣営幹部は告示直前、森喜朗元首相が「(安倍)首相の本命は岸田氏だった」と披露したのを追い風と見る。岸田派の外へ支持を広げるため、この日強調した格差是正をはじめ力強い「岸田カラー」も訴えていく作戦だ。 (河合仁志)

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