観光立国外国人頼み 地方の視点欠いたまま 恩恵とひずみ

西日本新聞 社会面 井崎 圭

【最長政権 私の採点】由布院温泉観光協会常任顧問・桑野和泉さん

 中国語も韓国語も聞こえない。日本屈指の温泉地、由布院(大分県由布市)は今、どこを歩いても外国人旅行客の姿はない。新型コロナウイルスの感染が広がるまでは、中国を中心にアジアからの観光客であふれていたのに。

 「恩恵とひずみがあった7年8カ月でした」。由布岳の麓で旅館「由布院玉の湯」を経営する傍ら、由布院温泉観光協会常任顧問を務める桑野和泉さん(56)は冷静に振り返る。

 安倍政権は経済浮揚を狙う成長戦略の一つに「観光立国の推進」を掲げ、訪日観光客の誘致策を積極的に展開した。中国、タイなど経済成長著しいアジア各国の観光査証(ビザ)の発給要件を次々と緩和。海外で大規模な宣伝活動を繰り広げ、大型クルーズ船を呼び込んだ。2012年に836万人だった訪日客は右肩上がりとなり、19年には3188万人と約4倍に。「20年に4千万人、30年には6千万人」という壮大な目標を掲げた。

 訪日客の消費喚起にも力を入れた。14年に消費税免税対象を全品目に拡大するなど免税措置を充実させた。この結果、消費額は4兆8千億円(19年)と、7年で5倍近く膨らんだ。「観光を成長産業と位置づけ、ここまで力を入れた首相はいなかった。長期政権で政策が継続されたことで大きな花が開いた」

   ◇     ◇

 昨年1月の通常国会。安倍晋三首相は「観光立国によって地方創生の核となる、たくましい一大産業が生まれました」と胸を張った。その誇らしげな言葉には違和感を抱く。「(訪日客数という)数字だけを追う危うさがあった。ローカルの視点が欠け、ひずみが生まれた」

 国内の観光地に訪日客が大型バスで殺到し、ごみのポイ捨てなどマナー問題が噴出。そうした場所を敬遠する日本人、眉をひそめる地元住民も多く「観光公害」という言葉まで生まれた。

 「訪日客が街の容量を超え、バランスが崩れた面がある。国内観光客も大切なのに、両輪がそろわないまま走っていた」。由布院にも県外資本の訪日客向け簡易宿泊所ができた。地元住民によるまちづくりという土台が、変化の波にさらされた。

 昨年は日本政府が半導体材料の韓国向け輸出規制を強化したのを機に、日韓関係は泥沼化。韓国人客の多い九州の観光地は影響をもろにかぶった。今年はコロナ禍で安倍政権が誇った果実も消えた。「以前から地域に寄り添った施策を打っていたら、観光業界もここまで痛手を受けなかったかもしれない」

 業界支援として政府が7月から始めた「Go To トラベル」。コロナ感染が再拡大する中でのスタートに批判が殺到し、7月の豪雨で甚大な被害が出た熊本県南部などは事業どころではなかった。やはり地方の視点は欠けていた。

 「一律ではなく、地方に実施時期や内容を任せればよかった。地域と向き合って丁寧に説明したり、地域が考える時間をつくったり…。安倍さんの苦手なことだったのでしょうか」 (井崎圭)

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