朗読シーンが圧巻!思わず声に出して読みたくなる青春小説

西日本新聞

 数々のヒット作を世に送り出している双葉文庫が、「小説界の新しい才能(ルーキー)を見つけ出そう」として、2019年から募集を開始した「双葉文庫ルーキー大賞」。その第一回受賞作となった大橋崇行の『遥かに届くきみの聲(こえ)』は、「朗読」をテーマにした青春小説である。

 かつて天才子役と呼ばれた小宮透は、子役だった過去を隠してひっそりと高校生活を送ろうとしていた。しかし、偶然にも同級生となったのは、中学の時に観た朗読コンクールで異彩を放っていた少女・沢本遥だった。透は演技だけでなく、朗読の天才少年としても知られていた。全日本小学生朗読コンクールを、小学三年生から六年生まで四連覇しているのだ。遥はそのことを知っており、自分が所属する”朗読部”へ入るようしつこく勧誘してくる。だが、透は頑なにそれを拒む。なぜなら、今の透には大勢の人の前で声を出せない理由があった。

「他の人なんて、どうでもいいよ。私だけを見て。それで私のためだけに、透くんの朗読を聴かせて。」

 遥は透を熱心に朗読の世界に引き戻そうとする。遥にもまた透の聲(こえ)を聴きたいという切実な願いがあった。遥と一緒に徐々に声を取り戻す透。やがて二人は朗読コンクールに向けて準備を進めるのだが――。

 本書の魅力は大きく二つある。一つは、小川未明の『赤い蝋燭と人魚』やあまんきみこの『ちいちゃんのかげおくり』、宮沢賢治の『オツベルと象』など、有名な文芸作品がたくさん出てきては、聞かせどころを存分に紹介してくれることだ。もう一つは、作品の解釈と朗読の戦略をまとった聲(こえ)を感じられることである。朗読劇やドラマであれば、役者が演技力の限りを尽くした聲(こえ)を聞かせてくれるだろう。しかし、本作はテキストベースの小説だ。音は読み手の想像の中にしかない。にもかかわらず、朗読シーンではいずれも部員たちの個性をまとった聲(こえ)が聞こえてくるかのようである。本作で初めて朗読に触れる人はその印象がガラリと変わることだろう。

 思わず声に出して読みたくなる。そんな衝動に駆られる一冊である。

 

出版社:双葉社
書名:遥かに届くきみの聲
著者名:大橋崇行
定価(税込):630円
税別価格:693円
リンク先:https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-52367-6.html

西日本新聞 読書案内編集部

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