麹つくりを通して発酵という生命の不思議を体験する「感性のトレーニング」

西日本新聞

 タイトル通りにまるごと麹(こうじ)の本だが、メインは麹についての説明ではなく、麹のつくり方だ。豊富な画像と共に、実際の麹つくりの道具や手順、コツが実に細かく紹介されている大変珍しい一冊である。

 珍しいのはそればかりではない。全ての文章が英訳されている。つまり、本書は世界中の人に向けて書かれたものだ。だから、世界のどこにいても手に入る材料のみで、どんな環境でも麹を作ることができる方法を解説しているのである。

 本書を読めば分かるが、麹つくりは湿度や温度などに細心の注意を払わなければならず、大変な作業だ。しかしそれは麹菌が生きている証拠。発酵という神秘的な生命の営みを体感できる感動的な作業でもある。その点が、日本のみならず世界中で麹つくりに魅了される人が増えているという理由のひとつであろう。

 実は昔、筆者の母の実家は醤油(しょうゆ)や味噌(みそ)を製造販売しており、筆者自身も幼い頃、蒸し暑く独特のにおいがする麹の部屋に入ったことがある。そこに並んだ「麹蓋」らしき木の箱の中の麹を大人たちが混ぜていた記憶があるので、あれは「盛り・仲・仕舞」だったのだな、と本書を読みながら理解し、懐かしく思い出した。

 学術的に麹菌のルーツははっきりしていないというのも興味深い。大昔から日々の営みのなかで試行錯誤のうえ生み出され、日本人と共存してきたであろう麹。麹文化研究者である著者は、麹への大いなる情熱を持つ若者だ。SNSを駆使し、世界中を旅して麹文化を広める活動を行っている。古くから伝わる確かな知恵は決して古びず、ここにさらなる新しい広がりの可能性を持つ麹文化を生み出しているのだ。

 本書は装丁がまた良い。細部まで気を配ってデザインされているのがよく分かるモダンでおしゃれなつくりだ。巻末には、麹つくりの各動作を動画でも確認できるようにQRコードが用意されている。古くて新しい一冊。世代を問わず楽しめ、英語の勉強にもなる。日本文化に興味がある外国人へのプレゼントにもおすすめの良書だ。

 

出版社:農文協
書名:麹本 KOJI for LIFE
著者名:なかじ 著
定価(税込):1,430円
税別価格:1,300円
リンク先:http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54019131/

西日本新聞 読書案内編集部

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