著者といっしょに放浪気分が味わえる酒飲みエッセイ集

西日本新聞

 吉田類の最新エッセイ集である。というだけで、著者の顔が浮かぶ人にはグダグダと説明する必要がない気もする。が、しかし、テレビで顔は知っていても、文章家の側面は知らないという人もいるかもしれない。念のために記しておくと、俳人、イラストレーターとしての顔を持つ。「酒を飲む」のが本業ではないのだ。もっとも、酒や旅をテーマにした著作も多数ある。

 多くの人にとって著者は、2003年9月からBS-TBSで続く『吉田類の酒場放浪記』の人だ。ちなみに、パソコンで「さかば」と打ち込むと「酒場放浪記」が予測変換で出てくる。そのくらい定着している。

 この「酒場放浪記」というタイトルが端的であると同時に秀逸だなと感じるのは、「酒」ではなく「酒場」としている点だ。そこで紹介されているのは、酒が飲める「場」であり、そこには人々が集う。件の番組が長寿を誇るのも、人との交流が魅力的だからだということは、番組を見たことのある人なら納得してもらえるだろう。

 エッセイも同様である。もちろん、酒の話はたっぷりあるが、出てくる大勢の人物がみな個性的。長めのまえがきに出てくる元税関職員の男性は91歳ながら、「立呑」の店でスマートに酒と会話を楽しんでいる。
「晩飯はいらんよー、と声をかけて出てきたんですって」
 と女将が教えてくれる。帰る先はグループホームという。

 エッセイはどれも1編が7~8ページほど、各地の酒場をめぐる著者といっしょに旅をし、人々と交流する気分で読める。酒の描写は堂に入ったものだ。「鬼神と交わす杯」から八海醸造ライディーンビールのくだりを引用しよう。その外見が「奇抜なハンサム」と評されている1本である。

「仕込み水は南魚沼の"超軟水"だ。醸される清酒の味は端麗辛口を本領としており、ビール造りにもそれが発揮されている。僕の喉にキーンと涼風が走る」
 このカフェには佐野洋子の版画がかけられているという。

 

出版社:中央公論新社
書名:酒場詩人の美学
著者名:吉田類
定価(税込):1,760円
税別価格:1,600円
リンク先:https://www.chuko.co.jp/special/yoshidarui/

西日本新聞 読書案内編集部

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