アートや文学がビジネスを変える。閉塞感を打破する”ロック”なビジネス書

西日本新聞

 「その時代に支配的だったモノの見方や考え方に対して、批判的に疑いの目を差し向ける」こと。哲学に代表されるこのような知的反逆行為を、著者は「ロックンロール」と呼ぶ。であるのなら、現在のあまりにも経済至上主義的なビジネスに反逆を試みる本書もまた、ロックンロールと呼んで差し支えないだろう。
 
 反逆といっても、もちろん本書はビジネス書であって思想書ではない。著者の語り口も一貫して丁寧で穏やかだ。しかし、議論の矛先(ほこさき)が日本の企業やエリートに向けられた途端、その舌鋒は鋭さを増す。

 いわく、論理思考を鍛えているビジネスパーソンは、正解=他人と同じ答えを出す能力を磨いているに過ぎない。いわく、生産性のみを規準とする人材評価システムは、某新興宗教団体の仕組みにそっくりだ。いわく、コンサルティング会社が流布した「数値による経営管理」なんて幻想である。むしろそのような数値信仰こそが、企業の度重なるコンプライアンス違反を招いてきた要因だ。などなど、随所にロック・ソングさながらの痛烈な批判が炸裂する。

 論理、生産性、市場評価。こうした従来のビジネスで重視されてきた客観的な指標に対して、著者は「美意識」の復権を訴える。美意識といっても、美的センスのみを意味するわけではない。本書においては、意思決定における「直感」、自分が属する組織の常識を相対化する「知性」、明文化されたルールがない場合の判断の拠り所となる「倫理」など、個人の内面的な規範を総称する言葉として使われている。数値などの「客観的な外部のモノサシ」に対する「主観的な内部のモノサシ」というわけだ。そして、多くの先端的なグローバル企業がアートスクールや美術系大学に幹部を送り込んでいる事例や、最新の脳科学の知見などを引きながら、アートや文学に触れる重要性、具体的に美意識をビジネスに活かす方法を説く。

 著者の主張の根底には、ビジネスとは本来、社会をより良くするためのものであるという信念が息づいている。ビジネスに美意識という「内部のモノサシ」を取り入れることは、経済に人間性を取り戻すこと、働くことの価値や実感を私たち自身の手に取り戻すことでもあるだろう。それはもしかすると、昨今盛んな働き方の見直しと同じくらい大切なことかもしれない。

 

出版社:光文社
書名:世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?
著者名:山口周
定価(税込):836円
税別価格:760円
リンク先:https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334039967

西日本新聞 読書案内編集部

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