新型コロナ対策 「現場」との対話が足りぬ

西日本新聞 オピニオン面

 新型コロナウイルスの感染者や死者の数は欧米に比べて桁違いに少なく、第2波ともいわれたピークも過ぎたとみられる。日本のこれまでのコロナ対策は一定の成果を上げてきた。とはいえ安倍晋三政権のかじ取りには、国民が疑問を抱く場面が多々あったことも事実である。

 2月に起きたクルーズ船の集団感染では乗客乗員の隔離施設が準備できず、船内隔離が続いた。感染者が続出し、死者も出る事態に、政府対応の「後手」を批判する声が高まった。

 国内感染が散発的に始まった2月末、安倍首相は突然、全国の小中学校に一斉休校を要請した。春の流行収束にどの程度の効果があったのかは不明だ。その後、子どもを通した感染の拡大は専門家も否定した。科学的知見を踏まえない場当たり的対応との批判は免れない。

 深刻なマスク不足が解消に向かい始めたころ、全世帯対象にマスク2枚の配布が始まり、無駄な「アベノマスク」と揶揄(やゆ)された。巨額の予算はPCR検査の拡充や医療現場の支援に回すべきだったのではないか。

 約1カ月半続いた緊急事態宣言を5月下旬に解除した際、安倍首相は「流行をほぼ収束させることができた日本モデル」を世界に誇示したが、程なく流行は再燃してしまった。

 専門家や医療現場との丁寧な対話を欠き、時に政策が迷走した点は否定できないだろう。

 安倍首相は辞任発表の前に、当面のコロナ対策を取りまとめた。開発が進むワクチンの確保と供給、インフルエンザと新型コロナの同時流行に備えた検査態勢や医療機関支援の拡充などが盛り込まれた。併せて、感染症法の運用を見直し、無症状者や軽症者は宿泊施設や自宅療養を徹底する方針も示された。

 発熱した人が小規模な診療所で検査を受け、医師などが感染すれば地域医療に影響がある。自宅療養中の軽症者が悪化したら速やかに対応できるのか。既に自治体、医療従事者から不安や疑問の声が上がっている。

 後継の政権には、医療や自治体の担当者、感染症の専門家といった「現場」の声に誠実に耳を傾け、きめ細かな政策を練り上げる姿勢を望みたい。

 国民の外出自粛や生活様式を変える努力、医療従事者などの懸命の尽力により、一定水準で流行が抑制できていることを、政府は肝に銘じるべきだ。

 同時に、その背後で深刻化する飲食・観光業界などの疲弊、解雇や雇い止めの増加に、迅速で実効性のある支援策が求められる。新型コロナ対策には一時の政治的空白も許されない。

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