短歌でしたためた「コロナ万象」47首 桜川冴子さん、総合誌から選歌

西日本新聞 吉田 昭一郎

 新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた今年前半、短歌総合誌はコロナ禍を詠んだ数多くの作品を掲載している。歌人で福岡女学院大准教授の桜川冴子さんに4月号から9月号まで5誌を中心に、国内の代表的な歌人らの作品を47首、選んでもらった。短歌で記す“コロナ万象”は人々の目線や感性、思いを鮮やかに映し出して共感を広げる。

~始まりはここから~

 パンデミックは中国・武漢から始まり、都市封鎖で人々の行き来が完全に止まった。

 〈道すべて封鎖されたる武漢にも梅咲きおらむ映されざりき〉吉川宏志(「歌壇」4月号)

 

 船内感染から横浜沖に長く停泊した大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号、何にたとえる。

 〈クルーズ船二月の孤絶の景となる捕らへられたる白鯨として〉

 〈検疫の大きな箱舟 陸(をか)にゐるわれらはヤバイといふ語しか持たぬか〉ともに梅内美華子(「短歌往来」4月号)

 

~セシウムとコロナが重なって~

 外出自粛要請の春を、東日本大震災と福島第1原発事故があった2011年春と重ねて詠んだ歌。

 〈セシウムを恐れしやうにウイルスに怯ゆる日々よ銀座しづけし〉栗木京子(「短歌研究」5月号)

 

 〈あの春もマスクしてゐた マスクして脱兎の勢ひありしやわれに〉

 〈あの春のマスクは十分足りてゐてうさぎのやうに孤独だつたと〉ともに大口玲子(「歌壇」5月号)

 原発事故後、宮城県から息子と2人で九州に移住し現在、宮崎県に住む作者は、マスクで今昔を思う。

 

~外出自粛、巣ごもりの日々から~

 全国を対象にした緊急事態宣言。不要不急の外出は控えるよう求められた。

 〈外出せず発酵しそうな窓窓窓 いきなり顔を出す子どもたち〉佐伯裕子(角川「短歌」6月号)

 

 〈「お先まっくら!思いはずっしーんお先まっくら!思いはずっしーん」〉花山周子(「現代短歌」9月号)

 宿題をやりたくない娘の叫びを詠んでいる。

 〈苛立っている子が立てる物音の脳にひびいて仕事中断す〉花山周子(同)

 

 屋内暮らしは延々と続いた。

 〈ゴミ出しのおかげで曜日の感覚が保たれている今日は火曜日〉

 〈朝ごとの検温をして二週間前の自分を確かめている〉ともに俵万智(「歌壇」7月号)

 〈居酒屋に行けない日々はのつぺらぼう仕事に区切りがなかなか付かず〉田村元(「歌壇」6月号)

 〈漬け物の重石のように休みつつ疲れていたり自粛(しずか)な日々に〉藤島秀憲(「現代短歌」9月号)

 〈いちばんに気の合う友の自分だから気楽に坐らせ適宜に酔はす〉馬場あき子(「かりん」6月号)

 〈雨上がりの朝のまだきに草を抜く無心は人を冷静にする〉平山繁美(「歌壇」7月号)

 〈「コロナ死」も水死も脳死も突然死もあり得る老いを夏の月照らす〉伊藤一彦(角川「短歌」9月号)

 

 かつてない? 食の気分転換マッチングもお目見え。

 〈自粛生活五十日目の寂しさはカップヌードルに金粉降らす〉笹公人(「短歌研究」7月号)

 

 〈エレベーターの階のボタンを押す刹那いっぽんの指の孤独を想う〉桜川冴子(「歌壇」7月号)

 熊本県水俣市の母親が昨年、病に倒れ、福岡市のマンションで2人暮らしを始めた作者。感染防止で指一本にも注意を払う。

 〈玄関のドアノブに手をさしのばす母のいのちを孕めるわれか〉桜川冴子(同)

PR

社会 アクセスランキング

PR

注目のテーマ