マスクで口の動き読み取れず…意思疎通困難 「聴覚障害者に理解を」

西日本新聞 北九州版 石黒 雅史

京築手話協会理事長 東淳之さん

 誰もが服を着るようにマスクを着用する時代。口の動きを読み取れず、意思疎通が困難になることは、聴覚障害者にとって、新型コロナ禍の一つと指摘される。手話を使わない私たちは一層の配慮が必要となるが、聴覚障害への理解がまだまだ足りない人が多いと、障害者に長年寄り添う京築手話協会(福岡県豊前市)理事長の東淳之(ひがしあつゆき)さん(60)は指摘する。

 「聴覚障害者にとって日本語は第2言語。手話が母語なんです」と東さんは強調した。私たちは筆談で通じると安易に考えるが、実は日本語の読解に苦しむ障害者は多いという。もちろん特別支援学校で日本語は習う。だが日常会話に使わない言語の習得を苦痛に感じる人もいる。受験英語を嫌うのと似た現象だ。

 手話には「てにをは」がない。単語の連続だ。だから文章の読解が難しく、苦手な人は日本語を手話に訳して理解する。単語のつながりは動きや方向で表現する。さらに理解を助ける大事な要素が読話(読唇)だ。手話、動作、読話が一体となって一つの言語といえる。「マスクは、言語の一部を封じることになる」のだという。

 取材に同席した聴覚障害者の元教員、高野俊二さん(67)が具体例を挙げた。「コンビニで店員が何か説明しているが、内容が分からない。身ぶりでマスクを下ろしてくれと頼んでも伝わらず、仕方なく適当にうなずいたらレジ袋の代金を取られた」「ガソリンスタンドでも互いに意思が伝わらず、店員が去って行った」。日々、似たようなことが起こる。高野さんは「感染拡大防止にマスクは必要だし、やめてほしいとは言えない。どうしていいか分からない」と肩を落とす。

    ◇   ◇

 東さんが手話通訳を始めたのは30年前。「暇つぶし」に受けた手話講習会で聴覚障害者の青年と知り合って意気投合し、手話習得に熱中するようになった。当初はボランティアだったが、手話通訳の地位向上などを目的に約20年前、会社員を辞めて通訳者を派遣する団体を設立、10年前に一般社団法人にした。現在約20人が登録している。

 派遣先の8割ほどは病院という。医師との間に通訳が要るためだ。ほか、イベントや集会などへの派遣、通訳者養成講座が主な業務だが、一番大切にしているのは障害者の居場所づくりだという。「老人ホームやデイサービスで、1人ぽつんといる人が、実は聴覚障害者だったりするんです」

 昨年3月、行橋市内の公共施設を週1回借り、高齢者たちが自由に過ごせる交流会をスタート。だが新型コロナの影響で休止になった。そこで豊前市にある一戸建て事務所を改装。車椅子も入れるよう畳を板張りにし、ウイルス対策のアクリルボードを置いて今月、交流会を再開した。手話を学びたい人も参加できる。

 目標がもう一つ。伝統的な手話の保存だ。手話は学校の寮で先輩から後輩へと受け継がれ、学校の数だけ方言がある。時代とともに変化するので世代間格差も激しいという。東さんによると「高齢者は動作が多く映像的、若者は効率的で野球のブロックサインのよう」。情緒豊かな高齢者の手話をインタビュー形式の映像で残そうと、構想を練っている。「地域文化の一つである手話を残しておかねば」。新型コロナが落ち着けば、着手するつもりだ。 (石黒雅史)

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