安倍外交・安保 米国偏重のひずみを正せ

西日本新聞 オピニオン面

 憲政史上最長の在任期間となった安倍晋三首相は「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を掲げ、国際社会で一定の存在感を示した。短命続きだった日本の首相では久しぶりに世界で「顔」が知られる存在だったのは確かだ。

 再登板した首相が描いたのは日米同盟を深化させ、それを軸に日本の外交力を高める戦略だった。世界2位の経済大国となった中国の軍事力増強や北朝鮮の核・ミサイル開発に代表される安全保障環境の変化への対処が急務だったからだ。

 ■形骸化する専守防衛

 在外駐留米軍の縮小を打ち出し、内向きになる米国の関心を東アジアにつなぎ留める狙いもあったのだろう。米国傾斜は「抱きつき外交」と皮肉られた。

 首相は「積極的平和主義」を訴え、戦後の安全保障政策を大きく転換させた。国是である「専守防衛」の形骸化につながる決定を重ねた。最たるものが安保関連法だ。集団的自衛権の行使を一部容認し、自衛隊の活動領域を広げた。防衛装備品の輸出にも道を開いた。

 首相は「助け合うことができる同盟は強固になった」と胸を張る。その内実はどうだろう。トランプ米大統領の求めに応じて戦闘機など高額な防衛装備品を購入し続けた。在日米軍駐留経費の増額も迫られている。「強固な同盟」実現のために払った代償はあまりにも大きい。

 米軍普天間飛行場辺野古移設は地元沖縄の声を無視して強引に進め、日米地位協定の改定は検討すらされていない。

 ミサイル防衛の地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画の頓挫は同盟強化のひずみの象徴である。首相主導で米国から導入を決めたが、実現には無理があった。その反省も曖昧なまま、代替機能の確保と称して「敵基地攻撃能力」の議論を持ち出している。

 安保政策の変更は熟議を尽くし、国民の理解を得ることが不可欠だ。後継政権は行き過ぎた米国偏重を改め、ひずみの解消に努めるべきだ。

 現職の米大統領として初めてオバマ氏の被爆地広島訪問を実現させた点は評価できる。ただ核軍縮に戦争被爆国の役割を十分に果たさず、核兵器禁止条約にも背を向けたままだ。

 ■未完の「戦後総決算」

 政権が長期化すれば積年の課題の前進が期待される。安倍首相は「戦後日本外交の総決算」と唱え、果敢に仕掛けた。

 北方領土問題を抱えるロシアのプーチン大統領との会談は27回に及ぶ。だが性急に成果を上げようと、4島返還要求から事実上2島返還に後退させ、今後に重いつけを残した。ロシアは憲法改正で領土割譲を禁じており、交渉は困難を極める。

 北朝鮮による日本人拉致問題を首相は「政権の最重要課題」と位置付け「任期中の解決」を目指したが、何ら進展しなかった。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談を実現させたトランプ氏を頼りに「前提条件なしの対話」を呼び掛けたが、実現には至っていない。

 韓国とは1965年の国交正常化以降最悪の関係に陥った。朴槿恵(パククネ)政権と慰安婦問題の解決を図る合意に達したが、次の文在寅(ムンジェイン)政権はそれをほごにし、元徴用工問題も加わり、対立が貿易、安保にまで波及した。

 首相には腰を据えて近隣外交に取り組む時間が十分にあったはずだ。歴史に根差す問題で行き詰まり、成果を出せなかった責任は重い。後継政権はその功罪を見極める必要がある。

 環太平洋連携協定(TPP)は米国が離脱しても日本主導で発効させた。米中が覇権を競う中、民主主義や法の支配といった価値を共有する国と協調を図り国際秩序の構築を先導する。今後の日本外交にそうした役割は継承されるべきだろう。

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