大人の都合で教育再生「子どものことより、日本の繁栄」

西日本新聞 社会面 四宮 淳平

【最長政権 私の採点】元文科省官僚・寺脇研さん

 貧困や虐待にあえぎ、「保護者」以外の大人との接点は乏しく、周囲に助けを求めるすべも知らない-。元文部科学省官僚、寺脇研さん(68)が企画に携わった映画「子どもたちをよろしく」には、そんな暮らしの子たちが登場する。

 2月に全国上映を始める直前、コロナ感染拡大防止策として安倍晋三首相が全国の学校に一斉休校を要請した。約3カ月にも及んだ休校期間中、映画の上映に合わせて各地を巡ると、抱いていた懸念は現実になっていた。給食がないことによる食生活の崩壊、親子が家庭に閉じこもる中で高まる虐待リスク…。「いろんな人から100回以上は聞いた。安倍さんは知りもしないでしょうけど」

 安倍首相とは因縁の仲だ。かつては「ミスター文部省」とまで言われ、詰め込む知識を減らして自ら考える力を養おうと教育改革の旗を振った。一連の動きは2002年から始まった学習指導要領に結実する。いわゆる「ゆとり教育」。

 それが学力低下のやり玉に挙げられると、風向きは一変した。06年に第1次政権を発足させた安倍首相は所信表明演説で「公教育を再生します」と宣言。授業時間を確保し、基礎学力を強化するとした。「日本の教育は一度死んだ、と認定された」。寺脇さんは居場所を失い、辞職した。

   ◇     ◇

 安倍首相は第1次政権で、約60年前の制定以来初となる教育基本法の改正を実現させた。掲げた教育目標は「我が国と郷土を愛する態度を養う」。第2次政権では「教育再生実行会議」を官邸に設置。やり残していた道徳の教科化に突き進んだ。実行会議は13年の初会合からわずか1カ月後、いじめをなくすという目的で「道徳の教科化」を求める提言をまとめた。

 18年から小中学校に順次導入される際は「考え、議論する道徳」となったことに寺脇さんは注目する。「もともとは『上からの命令に皆が従う社会』のために教科化を進めたと解釈できるが、震災をはじめ予測不能な事態が頻発し、それでは立ちゆかないと思ったのだろう」

 20年度から小中高と順次導入された学習指導要領でも「主体的、対話的で深い学び」を全体に織り交ぜ、自ら考える子どもの育成を打ち出した。寺脇さんには「ゆとり教育の考え方と全く同じ」に映った。

 重点は「理念」から経済対策、国際競争力の強化へ移る。その流れに大学入試改革もあった。大学入試センター試験の後継となる大学入学共通テストに、国語と数学の記述式を導入。英語は「読む・聞く・話す・書く」の4技能を測る民間試験を活用する-。

 暗記にとどまらない力を問う改革だったが、記述問題の採点にまつわる懸念、居住地や経済状況による受験機会の格差などから「公平性が担保できない」と批判が高まり、来春の実施は土壇場で見送られた。

 「改革の方向性は悪くなかったけど、やり方を間違って大失敗した。安倍さんの視点は日本経済を繁栄させるという大人の都合だけ。子どものことは何も考えていない」。入試改革、一斉休校と、振り回された受験生たちの苦悩が目に浮かぶ。 (四宮淳平)

PR

社会 アクセスランキング

PR

注目のテーマ