岸田氏に温情票?むき出しの“派閥の論理” 露骨な「石破つぶし」も

西日本新聞 河合 仁志 一ノ宮 史成 下村 ゆかり

「派閥の論理」むき出し

 14日、菅義偉新総裁を選出した自民党総裁選はむき出しの「派閥の論理」に始まり、終わった。無派閥の菅氏に5派閥が競うように相乗りし、告示前に勝負はついた。石破茂元幹事長を最下位に落とし、再起不能にさせることをもくろみ、安倍晋三首相と麻生太郎副総理兼財務相がそれぞれ所属する派閥から、2位の岸田文雄政調会長に議員票を融通する工作も行われたとみられる。「密室」「談合」色が拭えぬ選出過程は、新政権を縛る足かせになりそうだ。

 「岸田文雄君、89票」-。

 野田毅・総裁選挙管理委員長が読み上げた瞬間、総裁選会場のホテルにどよめきが広がった。岸田氏の地方票はわずか10票。率いる岸田派は47人のため、数字は岸田氏が事前の予想をはるかに上回る国会議員票を獲得した事実を告げていた。「よしっ」と強くあごを引く岸田氏。派閥の参院中堅は拍手をしながら「予定より30票近く、多いな」とつぶやいた。

 今回、菅氏を推した首相と麻生氏だが、岸田氏も見捨てたわけではなく、一方で石破氏を毛嫌いしているのは周知の事実。2位争いに後れを取りそうだった岸田氏を見かね、当の菅氏も地方票の集計直前、方々に電話して岸田票の現状を情報収集していた。

 この日、首相の出身派閥・細田派の中枢幹部は、菅陣営の関係者から「(岸田氏に)票を回したのか」と尋ねられ「自民党には、こういういいところがあるんだよな」と満足そうに独りごちた。麻生氏の側近も「うまくいった」と漏らし、圧倒的優位だった菅陣営から岸田氏サイドに対する温情票の存在をにおわせた。

 国会議員票が伸びず、計68票にとどまった石破氏は、硬い表情を崩さず会場を後にした。幕引きまで続いた「石破つぶし」の背景を、自民党関係者は明かした。「『石破総理』がいかに非現実的かを、党内外に示す。石破氏の政治生命の芽を徹底的に摘んでおくということだ」

      ■     

 首相が辞意表明した翌日の8月29日、二階俊博幹事長らと菅氏が密会して流れをつくり、5派閥が勝ち馬に乗ろうと「菅氏支持」で雪崩を打った構図だった。

 派閥に属さず、党内基盤の薄さが弱点だった菅氏。自身の派閥に総裁候補を持たないため、「キングメーカー」になることでしか党中枢の地位を保てない二階氏。両者は利害がピタリと一致し、補完し合える関係にあった。二階氏は地方で人気の高い石破氏に有利とならないよう、党員・党友投票を省略する「簡易型」の選挙方式も早々にレールを敷き、菅氏に大きな恩を売った。大勢は決した。告示前から各派閥の関心は菅政権を見越した猟官運動に移り、「論功行賞」狙いの綱引きが際立った。

 自民党はかつてカネ、人事、選挙を陰で操った派閥支配が世論の批判にさらされ、政治改革の潮流ともあいまって2009年には野党に転落、出直しを図ったはずだった。今回の選挙戦では政策論争は後景にかすみ、「数は力」の原理に基づく派閥政治が堂々と復権し、「古い自民に後戻りするな」の声はかき消された。

 16日、第99代首相となることが確実な菅氏。14日の記者会見では「派閥の弊害ということは全くない」と言い切ってみせたが、選挙戦で背負い込んだ派閥のしがらみがそのリーダーシップに影を落とすことは避けられない。

(河合仁志、一ノ宮史成、下村ゆかり)

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