新総裁に菅氏 「総括なき継承」の危うさ

西日本新聞 オピニオン面

 長期政権の成果を引き継ぐのは理解する。ただ総括も不十分なまま、負の側面まで丸ごと継承する姿勢でいいのか。危機の時代を前例踏襲の政治で乗り切れるのか。弊害が明らかな「旧態依然」とは決別すべきだ。

 安倍晋三首相の後継を決める自民党総裁選は、安倍路線の継承を訴えた菅義偉官房長官が岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長を破り新総裁に選出された。16日召集の臨時国会で新首相に指名され、菅内閣が発足する。

 通算でも連続でも首相在職日数の新記録を更新中だった首相の突然の辞意表明で、降って湧いたような後継レースだった。

 ふたを開けてみれば、最後に出馬を表明した菅氏の圧勝である。告示を待たずして誰もが予想し得た結末でもあった。

■「古い政治」の象徴

 それはなぜか。党内の主要5派閥が菅氏の出馬表明に先立ち相次いで菅氏支持を打ち出したからだ。総裁選の土俵も「政治空白を避ける」として国会議員票と同数の党員・党友投票が省略された。派閥の合従連衡で「次の総理・総裁」が決まるレールは早々と敷かれたと言える。

 普段は鳴りを潜めている派閥が、権力闘争の開始と同時に覚醒し躍動する。「政策集団」を名乗るものの、実態は政府、国会、党のポストを争奪する集団として機能する。昭和の時代に全盛を誇った「古い政治」の象徴であろう。そんな総裁選びの力学が今なお健在であることに改めて驚く。

 総理・総裁に反旗を翻せば人事で冷や飯を食う。そんな長期政権が築いた「総主流派体制」の名の下で「寄らば大樹」の風潮がはびこっていないか。

 菅氏もかつては派閥に属したが、ここ10年以上は無派閥を貫く。派閥に推されて出馬したわけではないと言うが、派閥が担ぐみこしに乗って圧勝したことは間違いない。新総裁と派閥の関係は党役員や新内閣の閣僚人事で明らかになるだろう。

 菅氏は「自助・共助・公助」を基本理念に掲げ、「縦割り行政、先例主義、既得権益を打破し、規制緩和を進め、国民に信頼される内閣をつくる」と宣言した。継承を骨格としつつも改革への意欲を示したのだろう。

 しかし、安倍路線の継承以外に、どんな理念に基づき、どのような政策を具体的に展開するのか。いわば「菅政治」のビジョンは決して鮮明ではない。

■「コロナ後」見据え

 将来の消費税増税に前向きな姿勢を示したかと思えば、「10年は引き上げる必要はない」との安倍首相の前言を引用し「私も同じ意見だ」と打ち消した発言の揺れには危うさものぞく。

 森友・加計(かけ)学園問題に代表される政治不信と公文書管理の問題、限界が指摘されて久しいアベノミクス北朝鮮による拉致問題の解決やロシアとの北方領土返還交渉などで現状打開へ動けるのか。そこでこそ、新政権は真価を鋭く問われよう。

 長期政権の継承は安定への近道である半面、修正には相当な政治力を必要とする。首相交代は後手に回り国民に不評だった新型コロナウイルス対応を見直す好機でもあるが、路線継承を掲げる菅氏にどこまで可能か。

 緊急登板の暫定的な総理・総裁にとどまるつもりはないと言うのであれば、中長期的に「ポストコロナの時代」を見通した政権構想を提示すべきだ。

 菅氏は自民党内で圧倒的な支持を受け後継総裁に選ばれた。自民、公明両党の与党が圧倒的多数を占める国会で新首相に選出されるのも確実だ。

 その次は私たち国民がこの政権を審判することになる。どんなに遅くとも衆院議員の任期が満了する来年10月までに必ず政権選択の次期総選挙が実施される。主権者として不断に選択眼を研ぎ澄ましておきたい。

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