寝たきりの息子、避難どうすれば…家族のSOSに地域が動いた

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

 人工呼吸器を使うなど医療的なケアが必要な子どもの避難対策を、地域ぐるみで進める集落が福岡県筑後市にある。予測が難しい地震などの災害ではやはり、身近に住む人の助けが頼りだからだ。家族のSOSに応じ、自治会側が「支え手」を募り、既に緊急連絡網も完成。近所付き合いを避けがちな障害者も少なくない中、「自ら声を上げ、地域に関わる」ことの大切さを教えてくれる。

 「家族だけで何とかするつもりでしたが、息子もどんどん大きくなってきたので…」。同市熊野の住宅地に住む内田瑞年(みづとし)さん(48)、まゆみさん(50)夫妻が、保健師や相談支援事業所に災害時の相談を持ちかけたのは、昨年8月のこと。

状況打ち明けたら

 息子の諒(りょう)さん(13)は寝たきりで、呼吸器などを使う。体重は約50キロあり、荷物も抱えて移動するには「大人が6人は必要」。大雨で実際に自宅が数時間停電し、具体的な対応を真剣に考えるようになった。

 自ら「地域に、こうした障害のある子どもがいると伝えよう」と、まず瑞年さんが、数年前に辞めていた行政区(自治会)の役員に復帰。役員たちに少しずつ打ち明けていった。

 普段は訪問看護や訪問診療を利用する諒さんだが、緊急時に人手が確保できるわけではない。相談支援専門員の副島裕美さん(37)は「医療や福祉だけでの対応は難しい」と判断。地域の力を借りるため、同市社会福祉協議会の生活支援コーディネーター、宮原明香さん(34)に声を掛けた。

 生活支援コーディネーターはもともと介護保険制度の中で、地域の高齢者の生活支援や介護予防に携わる職種。行政区に詳しく、人脈もある。

 初めて関係機関が集まり「ケース会議」を開いたのは同年9月。諒さんと直接関わる病院や訪問看護、特別支援学校などに加え、行政区長や民生委員、児童委員、市の防災担当職員まで名を連ねた。「身内に障害があることを隠す家族も多い。今回は内田さんから明らかにしていただいたことで、支援の輪がつながっていった」(宮原さん)

役員が調整に奔走

 話し合いの中で、まず諒さんの避難先として病院が受け入れを快諾。ハードルとなる避難時の人手は、内田さんの自宅一帯の隣組4組(約50世帯)から支援者を募り、緊急連絡網も作ることを決めた。住民同士の共助によって個別に避難計画を整えるよう、市が名簿登録を求めている「災害時要援護者支援制度」にものっとったものだ。

 地域で調整役を果たしたのが、この4組を担当する評議員(福祉相談員)の中島明男さん(71)。最低、必要になるのは「男性2人と、医療などに従事した経験のある女性1人」と想定。各隣組長にも相談し、1軒ずつ回って協力を呼び掛けたところ「男性は10人以上、女性も4~5人が名乗りを上げてくれた」。避難に詳しい消防職員も近所に住んでいると判明。諒さんの写真や自宅の地図も載せ、副島さんが手作りした「自己紹介チラシ」を回覧板で周知したことも、共感を呼んだとみられる。

 実際には支援者側も被災者となるため、協力希望者のうち「小さいお子さんや、介護が必要な高齢者がいる世帯」などは外し、最終的に男性8人と女性3人を「支援メンバー」として選出。各隣組長や医療、福祉の事業所も含めた連絡網を完成させ、要援護者の名簿にも登録を終えた。

 なるべく負担感を減らすよう、緊急時に連絡を受けた際に動けるメンバーが駆け付ける仕組み。地域では高齢者の避難対策は遅れており、中島さんは「今回の取り組みをもとに少しずつ進めていきたい」と語る。

誓約書交わし担保

 協力者を募ったとき、住民側からは「不慣れな医療機器を触るのは不安」「避難中、事故があったら」と懸念する声も出た。このため内田さん夫妻は、メンバーとの間で「地域の支援者に一切責任は問わない」とする誓約書を交わした。

 行政区の役員は原則1~2年で交代する。「連絡網を更新し、態勢を継続していくため」(副島さん)にも必要だった。「地域で取り組んでもらっただけでも感謝している。自分の家族を守ることを優先してもらい、少し余力があるときに支援をいただければ」とまゆみさん。「逆に1人暮らしの高齢者の支援など、自分たちができることは力になっていけたら」-。

 宮原さんは地域の「潜在力」に手応えを感じている。「助けてと言うと、支援してくださる方がたくさんいる。障害のある方もない方も日々、つながりを持つことで安心して暮らせるような地域を目指したい」

 新型コロナウイルスの影響もあり、内田さん家族と支援メンバーは今月13日、ようやく初顔合わせ。実際に諒さんを抱えるなど避難の手順を確認した。時期をみて、今後は本格的な避難訓練も行うつもりだ。 (編集委員・三宅大介)

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