「権力の使い方熟知している」官僚たち恐々 菅氏、官邸主導に大号令

西日本新聞 一面 湯之前 八州 一ノ宮 史成 前田 倫之

始動 菅政権(1)

 「まさに身の引き締まる思いだ」。自らの政権が本格始動した17日朝、菅義偉首相は官邸で報道陣にこう覚悟を語ると、矢継ぎ早に閣僚を呼び「今まで霞が関でやったことのないスピードでやってくれ」と指示を飛ばした。

 平井卓也デジタル改革担当相に、政府のデジタル化を一手に担う「デジタル庁」の発足作業を急ぐよう命令。田村憲久厚生労働相にも、不妊治療への保険適用の検討加速を求めた。河野太郎行政改革担当相は早くも、省庁の弊害を国民から吸い上げるオンライン目安箱「縦割り110番」を開設した。

 内閣の「番頭格」である加藤勝信官房長官は昼すぎ、官邸ホールで官僚ら約170人を前に訓示した。「皆さんに求められているのは縦割りを排する、前例踏襲しない、さらには規制緩和。事が決まれば、果敢に」

 菅氏が16日夜の記者会見で力を込めた改革姿勢を、官邸主導というエンジンで押し出していくとの宣言だった。

        ◆      

 行政権力を官邸に集中し、トップダウン型で迅速に政策を実行する官邸主導。橋本龍太郎政権に源流を持ち、菅氏が継承するとしている安倍晋三政権の下で一つの完成形を見た統治手法だ。内閣人事局を通じた省庁の人事コントロール、絶対忠誠を誓う「官邸官僚」の存在が特徴。司令塔は政府ナンバー2の官房長官、菅氏その人であった。

 これから、官邸主導はさらに強固になる-。ある種の畏怖の感情を伴い、霞が関では既に予測が広まりつつある。政府高官は「(菅氏らに相当程度を委ねていた)安倍さんと違い、トップに立った菅さんは自身で官邸主導の大号令を掛けているからだ」と話す。

 「菅流官邸」の権力構造も大きく変わりそうだ。

 安倍氏の「懐刀」と評された今井尚哉、日ロ経済協力などの交渉を担った長谷川栄一の両首相補佐官、スピーチライターの佐伯耕三秘書官が、主とともに官邸の中枢を離れることになった。経済産業省出身の3人に由来し、「経産省政権」の名称が定着するほど重きをなした存在だった。

 一方、警察出身で省庁に広くにらみを利かせる杉田和博官房副長官、菅氏の名代として市街地再生から米軍再編まで携わる元国土交通省の和泉洋人首相補佐官は続投。国交省の若手官僚は「菅氏も含め、権力の使い方を熟知している人たち。戦々恐々ですよ」と省内の空気を代弁した。

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 「選挙で民意を受けた政治家に官僚は従うべきだ」。常日ごろ、官邸主導の正当性を強調してきた菅氏。「まっとうな意見。あるべき行政の姿だ」(内閣府幹部)と受け止める官僚は実は多い。

 問題は、安倍政権で行き過ぎて暴走し、「忖度(そんたく)」の横行や文書改ざんの問題という深刻な副作用につながったこと。加えて菅氏は首相就任直前、政権の決めた政策の方向性に反対する省庁幹部は「異動してもらう」と断言している。同じ事態が繰り返されない保証はない。

 総務省自治税務局長だった2014年、ふるさと納税で後に問題化する返礼品競争を懸念して菅氏に意見具申し、その後、昇進ルートを閉ざされた平嶋彰英氏(62)は危ぶむ。「政策の検討過程で進言、忠言することさえできなければ、菅政権は独裁になる」

(湯之前八州、一ノ宮史成、前田倫之)

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 「国民のために働く」をうたう菅内閣。7年8カ月の安倍政権の何を引き継ぎ、変えるのか。4回にわたり探る。

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