マスクでも笑顔が届きますように…コロナで一変した生活 保育士の思い

西日本新聞 くらし面 本田 彩子

働き支える コロナ禍のくらし〈上〉 福岡市の保育士・中島季歩さん(28)

 ぐずる乳幼児には笑顔がいちばん効く。言葉がまだうまく通じなくても、満面の笑みで「大丈夫だよ」と伝えるとそう感じてくれる。やがて安心感に包まれたように笑顔を返してくれる。だが今、先生の笑顔はマスクに覆われて見えない。

 保育士になって6年。福岡市博多区のどろんこ保育園で1~2歳児20人のクラスを4人の保育士とともに受け持つ。今年初めてクラスのリーダーを任され、張り切っていた。だがコロナ禍で一変した。

 4月、緊急事態宣言が出されると、保護者が休業になったり、在宅勤務になったりして登園しない子どもが増え、180人の園児は一時、3分の1まで減った。受け持ちのクラスも5人になった。

 子どもの姿がまばらになった園内。さらにマスクがもどかしい。1歳児は発語を始める大切な時期。保育士は唇の動きを意識してゆっくり語りかけ、発語の見本を示す。それができない。マスクの下で笑顔を作っても、目の動きだけで本当に伝わるのか、不安になる。

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 自身、2歳の男児の母だ。同じ園の壁一枚隔てた隣のクラスに預けて働く。

 宣言後、長男の登園を見合わせた。検温、手洗い、消毒。対策を取っても、園児との距離は常に近い。園児にうつさないか、園児からうつらないか。緊張は解けない。わが子が心配だし、わが子が媒介となるのも心配だった。だがリーダーとして休むわけにはいかない。幸か不幸か会社員の夫の出勤日が半減した。約2カ月間、夫と休みを調整して家庭保育で乗り切った。

 子どもを園に預ける保護者の多くは看護師や介護士、ライフラインの関連業者など休むことも在宅勤務もできない人。送り迎えで接するときは努めて「いつも通り」を心掛けた。彼らにとって保育園は仕事の緊張から解かれ、ほっと日常に戻る大切な時間だから。

 登園しない園児の家庭には週1回電話をかけて様子を聞いた。5月には園児全員に塗り絵付きのはがきを送った。「元気に遊んでいますか」「ごはんをたくさん食べていますか」。一枚一枚、メッセージを手書きした。たくさん返事が来た。「子どもと一緒にいる時間が増えたので、子育てを楽しんでます」。前向きな言葉が多く、ほっとした。

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 保育士を目指したのは中3の頃。世話好きを見込んだ担任が勧めてくれた。

 子どもは日々、成長する。砂場で遊んでいた1歳児が初めてスコップを持った手首をひねって砂をすくえた。小さいが、大事な変化だ。それを目の前で実感できる。その瞬間がたまらなくうれしい。

 保育士の仕事は小さな働きかけの積み重ねだ。そしてその答えは何カ月も何年もたって子どもに表れる。表情もその一つ。先生の表情がマスクで覆われたことがいつ、どのように子どもの成長に響くか。不安はもやもやと募る。

 本当なら今頃は10月の運動会に向けて慌ただしい。だが今年は運動会が短縮され、0~2歳児は不参加となった。衣装や小道具の準備も練習もいらなくなった。リーダーとして少し寂しいが、その分、子どもたちと向き合う時間をもらえたとも思う。小さな働きかけと小さな発見。コロナ禍の日常でも変わらず続けていく。 (本田彩子)

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 国内で新型コロナウイルスの感染拡大が本格化して半年余り。オンライン授業やテレワークが広がる中、現場で働き続ける「エッセンシャルワーカー」たち。私たちの暮らしを支える彼らの思いを探る。

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