タイ王室観、親子を分断 「国王は絶対的存在」「大切だから改革を」

西日本新聞 国際面 川合 秀紀

 【バンコク川合秀紀】反体制集会が続くタイ・バンコクで19、20日、5万~10万人の参加が見込まれる近年最大規模のデモ行進が実施される。タブーだった王室批判を強める学生だが、王室の権威を絶対視する親との対立が深刻化。会員制交流サイト(SNS)には「(親が)学費を払ってくれない」「家から追い出された」との投稿が相次ぐ。食い違う王室観は家族の絆にも影を落としている。

 バンコク郊外の市場。子ども3人を育てる会計業のムーさん(52)は、週末の副業として営むカフェ屋台で深いため息をついた。

 「周りの親も政治や王室のことで子どもとけんかしている。『なぜ集会に出るの、なぜ王室を批判するの』とみんな泣いているのよ」。隣で、娘の大学4年ジンさん(23)が携帯電話を触り続ける。

 ジンさんは今月8日、ツイッターに「母は『タイ人はみな国王の子ども』と毎日言い続け、私はフェイスブックに(母が投稿を見ているから)王室批判を投稿できない」と記し、約7万件もリツイート(転載)された。8月16日に約3万人が参加した反体制集会でも、直前に開催告知を自身のフェイスブックで共有した。すると投稿を見たムーさんが「削除しないと家に入れない」と言ってきた。従ったが納得はしていない。「いくら母でも、言いたいことを言うなというのは若者の権利を侵害している」

 ムーさんは「権利を主張する気持ちは分かるけど、SNSには偽の情報ばかり。若者はよく理解できていないのよ」と意に介さない。「プラユット首相もよくやっている。特に王室批判は全く納得できない。絶対だめ」。首には、絶大な人気を誇った前国王=2016年死去=のペンダントが光る。「国王は神様のような絶対的存在だから、改革なんて必要ない」

 ジンさんも「タイにとって王室は大切」と言うが、その先が違った。「現国王については良くないイメージが増えている。もっと増えれば、王室はいらないという雰囲気になってしまう。そうならないように改革が必要だと思う」

 ムーさんは14年の軍事クーデター以前、タクシン元首相派に反対するグループのデモに何度も参加し、元首相派との衝突現場にも居合わせた。「だから分かる。若者の集会が続けば激しい混乱が起きる」。19、20日のデモは8月16日の集会を上回る規模が予想される。ムーさんは何度も娘の肩や膝に手を置き、参加しないよう説得したが、ジンさんは首を縦に振らなかった。「友人のような母だけど、言えないこともある。母が集会に参加したように、私もちゃんと考えて動いている」。デモへの参加は、もう決めている。

 今の国王に思うことは本当にないのか。娘と離れた場所でムーさんに尋ねると「タイに住んで仕事してほしい」と、1年の大半を欧州で過ごす国王への注文を口にした。ただ「希望と現実は違う」とも漏らした。

 集会に参加する若者の多くは「数十年後、上の世代がいなくなれば国は変わる」と主張する。ムーさんにそう伝えると「悲しい言葉。大人になれば私たちの気持ちが分かるはず」とこぼした。

 ジンさんにも“世代交代による解決”について尋ねると「正しくない、とは言わない」と答えつつ、母と同じ寂しそうな表情を浮かべた。「でも、母は大切な存在。いなくなるのを待つのではなく、お互い心を開いて頑張って話せば状況は変わるかもしれない。難しいとは思うけど」

 埋めがたい隔たりと、理解し合いたいと願う思いが2人の言葉ににじんだ。

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