速い!対コロナも韓流 池田郷

西日本新聞 オピニオン面 池田 郷

 以下、ソウルに駐在する日本人男性の体験談。

 仕事中に突然、電話が鳴った。「こちらソウル市鍾路区役所です。あなたは8月15日、光化門付近にいましたか?」。男性は同日、光化門の職場に出勤していた。図星だったので、ぎょっとしたという。

 当局は、スマートフォンの位置情報記録から男性の行動履歴を割り出したらしい。付近で開かれた集会に、新型コロナウイルス感染者が参加。近くにいた全員にPCR検査を受けさせるため、しらみつぶしに電話をしたようだ。

 韓国の防疫対策は徹底している半面、私権を制限する対策も目立つ。感染者は氏名こそ匿名だが、年齢や性別、接触者、訪問先などの詳細が自治体のウェブサイトに載る。新興宗教の信者との交際が周囲にばれた女性や、性的少数者が通う店を訪れた男性の個人情報がネット上で詮索されるなどの被害も起きている。

 当局はさらに街中に設置された監視カメラと、17歳以上の全国民が持つ「住民登録番号証」を駆使する。番号からは納税状況やクレジットカードの利用履歴、学歴、職歴などが調べられる。1968年に制度化された番号証は、当時の軍事独裁政権が国民に常時携行させ、北朝鮮のスパイを摘発する狙いもあった。

 その軍事独裁政権を敵視し人権や民主主義の尊重を掲げる文在寅(ムンジェイン)政権が、私権の制限に無頓着な点は矛盾を感じる。もっとも国民監視が日常だった時代の名残なのか、韓国世論に大きな反発はない。

 日本政府の対策は、韓国より私権の制限に慎重のように映る。ただし、日本外交筋は「それは欧州に根付いているような人権意識というより、結果に責任を負う決断を先送りしがちな国民性の表れではないか」と分析する。

 コロナ対策に限らず、韓国では立法や制度改正までのスピードが速い。「まずは実行し、走り進めながらその都度生じた問題点を修正していく」。8月刊行の中公新書「韓国社会の現在」の著者、春木育美氏は韓国政治の特徴をこう指摘する。

 行政や社会の急速なデジタル化も、変化を恐れない国民性のなせる業だ。反作用として見切り発車の危うさも常につきまとうのだが。

 よく利用するソウルの路線バスは総じて運転が荒い。韓国のスピード感と、日本の緻密さを足して割れないものか…。車内の手すりを握り締め、そんなことを考える。

    ×   ×

 いけだ・ごう 熊本市出身。1996年入社。佐賀総局、報道センター(福岡市政担当)、東京報道部、熊本総局などを経て2019年3月からソウル支局長。

PR

社説・コラム アクセスランキング

PR

注目のテーマ