通り魔事件を機に朝の通学路に…みんなのおじいちゃん「ありがとう」

西日本新聞 社会面 長松院 ゆりか

安全・成長見守り15年

 15年間、小学校の通学路で児童の安全を見守り続けている“おじいちゃん”がいる。福岡市南区塩原1丁目の田中欽一さん(86)。同区内で小学生が被害に遭った通り魔事件をきっかけに「子どもたちを守りたい」との一心で始めたが、いつしか子どもたちからの感謝の言葉と笑顔に支えられている。「いつもありがとう」。21日は敬老の日-。

 午前7時10分、田中さんの見守りは始まる。歩行者や自転車、車がせわしなく行き交う交差点。「おはようございます」「行ってらっしゃい」。横断歩道上で「横断中」と書かれた黄色の旗を手に約1時間半、声を掛け続ける。児童から元気なあいさつが返ってくるたび、マスクをした田中さんの顔がほころんだ。

 66歳で退職後、自治会などの地域活動に力を入れるようになった。2003年、同区で登校中の男子児童が火を付けられて大やけどを負う事件が発生。「どこで起こってもおかしくない」との危機感から、地域の友人と見守り活動を始めた。

 当初は防犯パトロール車での巡回が中心だった。約15年前に近くの川に橋が架かり通学路の交通量が増えたことから、登校日の朝は交差点に立つようになった。青信号の点滅中に走って渡ろうとする子には「危ないよ」と注意する。立ち止まっている子には「どうしたの」とさりげなく声を掛け、手をつないで学校に向かう。

 田中さんは「義務感ではなく、楽しいから続けられた」と振り返る。ある日、「私のことを覚えてますか」と話し掛けてきた若い女性は「小学生の時、ここを通ってました。あの頃はお世話になりました。もう大学生です」と報告してくれた。初老の男性から「今日で定年退職します。長い間ありがとうございました」と思いがけない感謝を伝えられたこともある。

 たまに休むと、児童たちに「風邪ひいてたの?」と心配される。新型コロナウイルスによる休校中は自身の生活のリズムも狂ったが、学校再開後はすぐにいつものペースを取り戻した。

 区切りにしようと考えていた85歳を過ぎた。通り魔事件の記憶は薄れつつあるが、子どもを取り巻く危険が取り除かれたとは言いがたい。「そろそろやめ時かなとも思うけど…。元気なうちは続けようかな」。もうしばらくは「みんなのおじいちゃん」として子どもたちの朝を見守る。 (長松院ゆりか)

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