終息のシナリオは?弱毒化してる? 識者に聞くコロナの最新情報

西日本新聞 医療面 下崎 千加

今冬、インフルと同時流行も

 高齢者や基礎疾患がある人は重症化しやすいとされる新型コロナウイルス。血栓(血の塊)形成や免疫機能の暴走など、そのメカニズムが最近の研究で明らかになってきた。再流行が懸念される冬を前に、ウイルス学が専門の柳雄介九州大教授に、注意点を含めた最新情報を聞いた。

▼血栓と免疫暴走

 国内外で比較的若い人が脳梗塞を起こしたり、軽症者が急激に悪化したりするケースが報告されている。こうした事例から、重症化には血栓と、ウイルスを攻撃する免疫機能の暴走が関わっていると、早くから指摘されていた。ドイツのグループは5月、新型コロナによる死亡者を解剖したところ、58%で深部静脈血栓が見られたと発表。厚生労働省は診療の手引を改訂し、血栓の検査などを盛り込んだ。

 重症化の過程も分かってきた。柳教授は体内で起きている現象を3段階に分けて解説する。

 (1)感染者の飛沫(ひまつ)を吸い込み、鼻や喉などの粘膜で数日かけてウイルスが増殖。発症前でも近い距離で話したりすると周囲にうつす。

 (2)ウイルスが肺に広がり免疫反応が起こる。まず、もともと備わっている「自然免疫」が働く。数日後から「獲得免疫」が働き、B細胞が抗体を作ったり、T細胞が感染した細胞をウイルスごと殺したりする。感染者の約8割は免疫反応のおかげで無症状や軽症で済む。

 (3)増殖したウイルスが、肺胞を取り囲む血管を傷つけるため、血管を修復しようと血栓が作られる。また、体を守るためのタンパク質「サイトカイン」が過剰に放出され、自分の血管や内臓を攻撃してしまう「サイトカインストーム」が起きる。このため肺で酸素を十分取り込めなくなって呼吸困難に。他の臓器でも血栓で血管が詰まると、命に関わる。

 柳教授は「高齢者や基礎疾患のある人は免疫機能が低下している。糖尿病や高血圧、肥満の人はもともと血管の内皮細胞が傷ついていて血栓ができやすい。心疾患や呼吸器疾患があると肺機能が低下し呼吸不全を起こしやすい」と重症化リスクが高い理由を説明する。8月下旬の米エール大の報告で、男性の方がウイルスを攻撃するT細胞の反応が弱いことも分かっており「特に高齢の男性は気を付けてほしい」と呼び掛ける。

▼弱毒化してない

 国立感染症研究所によると感染者の致死率は、5月と8月のそれぞれ1カ月間を比べると、7・2%から0・9%に下がった。無症状者や軽症者の割合が増えたのは「ウイルスが弱毒化したからでは」と楽観視する声もある。これに対し、柳教授は「重症化しにくい若者の感染が増え、検査や医療体制が充実して治療法の開発も進んだためだ。弱毒化を裏付けるデータは今のところない」と言い切る。

 新型コロナウイルスのゲノム(全遺伝情報)は約3万塩基からなるリボ核酸(RNA)でできており、2週間に1塩基のペースで突然変異する。同研究所のゲノム解析では、国内で流行したのは1~2月が「武漢型」、3~5月が「欧州型」。6月以降も変異を続けているが、弱毒化も強毒化もしていないという。

 シンガポールで重症化しにくい型が一時的にはやったが、3月以降は見られなくなった。「ウイルスにとって大事なのは、子孫をたくさん残せるかどうかで、強毒か弱毒かは関係ない。現に今、世界で流行しているのは、人の間で広がりやすいタイプだ」と話す。

▼終息のシナリオ

 この冬はインフルエンザと新型コロナの同時流行が心配だ。19日にプロスポーツなどの観客数制限が大幅緩和され、10月からは政府の観光支援事業「Go To トラベル」に東京都が追加されるなど、懸念材料もある。

 「インフルもコロナも主に飛沫感染。マスクなどの対策を続ければ、インフルは例年より減る可能性がある。ただ、警戒を緩めるとすぐに感染が広がる。インフルが例年並みに流行するなら、新型コロナ感染者も大変な数になりかねない」

 世界でワクチン開発が進むが、英製薬大手アストラゼネカの治験が副作用の疑いで一時中断されるなど、曲折も予想される。「かかっても大多数が軽症や無症状で済む新型コロナは、ワクチンで副作用が出るようなことはあってはならず、拙速は避けるべきだ」と慎重な対応を求める。

 終息のシナリオとして(1)発症を完全に防ぐワクチンが完成し、根絶(2)ウイルスが弱毒化し、死者がほとんど出なくなる(3)マスク着用といった人の行動変容と、重症化をある程度防ぐワクチンや治療法の開発で、時々流行しても大きな問題ではなくなる(4)現状が何年も続いて、人口の多くが抗体を持つことで感染が広がりにくくなる「集団免疫」を獲得-の4パターンが考えられるという。

 (1)と(2)が理想だが、難しい。(4)は国民の6割以上が感染する必要があり、多数の高齢者らが犠牲となる恐れがある。さらに、国内外で再感染が報告され「抗体が長続きしない」との指摘もあり、現実的でないとみる。柳教授は「気を抜かずに3密回避やマスク着用、手洗いを続けることが何より大切」と強調している。

 (編集委員・下崎千加)

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