『陸軍』(下)「不敗神話」巡る口論 忍ばせたか軍国への疑問符

西日本新聞 吉田 昭一郎

フクオカ☆シネマペディア(4)

 プロ野球の福岡ソフトバンクホークスの必勝祈願でおなじみの筥崎宮(福岡市東区)が、戦時中の映画「陸軍」(1944年、木下恵介監督)に登場する。

 日中戦争への暗雲垂れ込めてきた頃、日本軍に協力する鉄工所の奉仕団の若者たちが参拝し、日本の必勝を祈願する。号令を掛けるのが元陸軍軍人、高木友彦。演じるのは小津安二郎監督作品で知られる名優、笠智衆だ。

 「陸軍」は国民の戦意高揚を狙った陸軍省後援の国策映画。福岡県を舞台に、幕末から満州事変、上海事変の頃まで、小倉、福岡両市に住んだ高木家3代の歩みを描く。それは、大日本帝国憲法の下で富国強兵を推し進め、日清・日露戦争から日中戦争へ至る日本の近代をたどる物語でもある。

 友彦は日露戦争に陸軍大尉として従軍した。しかし、病気で戦場に出ることができず失意の帰国をする。高木家は先代まで小倉で質店を営んだが、融通が利かない友彦には向かない。妻のわか(田中絹代)と生まれたばかりの長男を連れて博多に移り、雑貨店を開く。

 それから20年。軍人勅諭を家訓のように大事にする高木家だ。長男が念願の陸軍入隊を果たすと、友彦は喜びの酒に酔い黒田節をうなるのである。

 そんな折、友彦は鉄工所経営者(東野英治郎)の依頼で、元軍人として奉仕団の若者らを率いて筥崎宮に参拝。元軍との古戦場跡である東公園(同市博多区)で「支那、満州」の時局を語り、元寇に触れ、戦意を鼓舞する。

 興味深いのは、友彦と鉄工所経営者の元寇に関する口論だ。「神風」(暴風雨)が吹かなければ日本は負けたのではないか、と問う経営者に友彦は怒りだす。

 「なんば言いよんなすな。(中略)たとえ神風が吹かんでも立派に元軍を撃退することができとった」「(元軍がほとんど上陸できなかったのは)日本軍の勇猛に恐れたけんです、日本の挙国一致の精神にかなわんじゃったけんです」

 勝敗は戦法や火器の優劣次第ではないか、と返されると、いよいよ友彦の怒りは絶頂に。「なんべん言うて聞かしたら分かっとですか。神風が吹かんでも日本は敗れんとです。敗れる国じゃなかっです」。友彦はとうとう中座する。

 「不敗神話」の強弁につい笑ってしまう。笠智衆の演技にはどこかおかしみがある。木下監督は、米国との国力の差を無視し太平洋戦争へ突入した軍国主義国家の非合理な頑迷さを、ひそかに友彦に体現させたのではないか。

 経営者の突っ込みは、「不敗神話」への国民の疑念を代弁させて、軍部にあてこすっているように聞こえた。木下監督は、敗色濃い中、国民を本土決戦へ総動員する軍国主義への疑問符を忍ばせて、見る側に問いかけたのだと思う。(吉田昭一郎)

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