「あんたげの豆腐じゃないと」豪雨被害の73歳店主、客のエールで再起

西日本新聞 熊本版 村田 直隆

 7月の豪雨で球磨川の濁流にのまれた熊本県芦北町白石地区の手作り豆腐店「白石とうふ店」が24日、被災3カ月を前に営業を再開した。1階の製造所は天井近くまで浸水し、周辺道路の崩落により集落は1カ月近く孤立。一時は廃業も頭によぎったが、「あの豆腐をまた食べたい」という客の言葉に奮起し、店舗再建にこぎつけた。

 「少し柔らかかったかな。でも再スタートを切れたことが何よりうれしい」。真新しい機械が置かれた製造所で、出来上がった真っ白な木綿豆腐を眺めながら、店主の白石憲男さん(73)は表情を緩めた。

 豆腐店は、父厚さん(1997年死去)が約70年前に開業。豊かな地下水を利用し、ほどよい弾力と濃厚な大豆の味が評判を呼び、多くの固定客を持つ人気店に育った。

 店舗は球磨川沿いにあり、梅雨時期には度々浸水。65年ごろの豪雨では建物ごと流されたが、再建して営業を続けてきた。97年から白石さんが継ぎ、2000年に国の治水対策で集落ごと3メートルかさ上げ。それ以降、道路が冠水しても店が浸水したことはなかった。

 「まさかあげん水が上がるとは思ってなかった」。7月4日、製造所に浸水し、白石さんは2階住居に待機。水が引いて被害を確認すると、冷蔵庫や豆腐製造に使う多くの器具、業務用車両が流されていた。機械類は泥をかぶり、床に40センチほど泥土が堆積。道路も崩れて集落外に出られず、「年齢を考えても、これで店は最後かなと思った」。

 被災後、自宅の風呂が使えず通っていた町営温泉で、地元客と顔を合わせた。「いつ再開すると」「あんたげの豆腐じゃないといかんのよ」-。豆腐を待ってくれている人々の声に触れ「父が築いてきた店の信頼を守らなければ」と再起を決意した。孤立解消までの1カ月間は不便な生活を強いられながらも、ボランティアの手を借りながら地道に片付けを続けてきた。

 営業継続に不安もある。機械類の買い替えや建物の修理費は総額約650万円。事業者への補助制度を活用するが、自己負担額は見えない。取引先だった大半の商店が被災で休業し、製造量も絞らざるを得ない。個人宅への訪問販売を中心に少しずつ経営を立て直していく計画だ。

 この日、近くの今坂健治さん(70)が、町内の仮設住宅で暮らす知人の分まで買い「しっかり大豆の味がするこの豆腐を待っていた。早く食べたい」と笑顔。白石さんは「多くの人の支えがあったからこそ。少しでも地域の方たちに喜んでもらえるように、体が動く限り作り続けたい」と決意を新たにした。

 (村田直隆)

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