どれほどの犠牲を払えば過ちに気付くのか…

西日本新聞 オピニオン面

 どれほどの犠牲を払えば過ちに気付くのか。この本を開くたび、人の愚かさを思い知らされる。1929年に発表されたドイツの小説「西部戦線異状なし」。第1次大戦の悲惨さを描いてベストセラーになった

▼「祖国のため」と教師にそそのかされ、勇んで出征した若者たちが向かった最前線は、死と恐怖が支配する地獄だった。きょうが没後50年の作者レマルクは自らの従軍体験を基に、戦争がいかにして人の命を奪い、心身を破壊するかを克明に記した

▼第1次大戦は膨大な死傷者を出した。理由の一つは戦車や飛行機、毒ガスなどの新兵器が導入されたことだ

▼<毒ガスに犯された兵士が、朝から晩まで絞め殺されるような苦しみをしながら、焼けただれた肺が、少しずつ崩れてゆく>。その描写は原爆による広島や長崎の惨状にも重なる。第1次大戦の終結から20年余りで、世界は再び大戦に突入し、核という新兵器が使われた

▼あすは国連の「核兵器廃絶国際デー」。だが、大国は核の保有が戦争の抑止につながると主張し、削減は進まない。それどころか「実際に使える」小型核弾頭まで配備された

▼小説の題名は、兵士が死んでも、軍司令部は冷然と「異状なし」と報告したことから。今、米中やロシアなどの大国は冷然と自国の利益を優先し、世界各地で緊張を高めている。平和の基盤となる国際協調に「異状あり」。なぜ歴史に学ばないのか。

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