菅首相、初出張で福島訪問 本気度見極める住民の目

西日本新聞 総合面 前田 倫之

 菅義偉首相は26日、福島県を訪れ、東京電力福島第1原発や原発事故を後世に伝える施設を視察した。首相就任後、初めての出張先に福島を選び、被災地重視を掲げた安倍晋三前政権の姿勢を受け継ぐと強調。初閣議で決定した基本方針に震災や原発事故に関する記述がなかったことによる「失点」を、いち早く挽回したい思惑も透けた。首相の本気度を見極めようと、被災者たちはじっと目を凝らした。

 菅氏が、事故で姿を変えた福島第1原発を訪れたのは初めて。水素爆発で骨組みがむき出しとなり、飛び散ったがれき撤去が進む1号機などを食い入るように見つめ、廃炉作業の進み具合を確認した。東電幹部から説明を受け、「復興と廃炉の両立のため、地元の皆さんと協力してやってほしい。国も今まで通り前面に出て、全力で取り組んでいきたい」と決意を述べた。

 事故直後、原発の20キロ圏内にある同県大熊町から同県会津若松市に避難した山本三起子さん(70)は複雑な心境でこのニュースを見た。

 首相がこの日午前に降り立った大熊町のJR常磐線大野駅周辺は、国が「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)に認定し、再び人が住めるよう除染を進めた。再来年春ごろの避難指示解除を目指すが、帰還困難区域に囲まれ、住民がどれだけ戻るのか不透明だ。家々の屋根瓦は剥がれ落ち、金属製のバリケードが民家や商店に続く道をふさぐ。

 「古里だから戻りたい。でも町も人も、元には戻らない」。たまに立ち寄る自宅は家具や食器が散乱し、あの日のままだ。気持ちを切り替えようと会津若松市に4年前、自宅を再建した。元の自宅周辺が復興拠点に指定されると決まったのは、その直後だった。「戻る、戻らないの気持ちは行ったり来たり。路線継続というけど、その安倍前政権に翻弄(ほんろう)され続けてきた」。当時の「番頭役」だった首相の言葉を信じ切れずにいる。

 同じ東北の秋田県の農村で生まれ育った「たたき上げ」首相だけに、期待の声も大きい。首相が立ち寄った東日本大震災・原子力災害伝承館を見学した男性会社員(61)は「最初の視察先が福島でうれしい。被災者の声に耳を傾けてくれるはず」と話した。

 中高一貫校の福島県立ふたば未来学園には、代表生徒との懇談に訪れた首相を一目見ようと、大勢の中高生が詰めかけた。「頑張れ菅さん」「大好き」。声援を受けた首相は照れ笑いを浮かべ、左手を振った。

 第1原発でたまり続ける処理水の扱いや、高レベル放射性廃棄物核のごみ)の最終処分場選定など、前政権が先送りした難題は菅政権に課せられた。遠くから首相を見つめた女子高生(16)は「前政権が被災地にどんな成果を残したんだろう。被災地の過去を見るだけでなく、しっかり目標をかなえてほしい」

 首相は就任に当たり、前政権の路線を継承するとしながら、内閣の基本方針に震災や原発事故を記載しなかった。平沢勝栄復興相が「たまたまそういうことになった」と弁明したことに、同県郡山市の女性会社員(45)は「そんなに軽いものなのか。復興はまだ終わっていないのに」と憤る。

 視察を終えた首相は記者団に対し、組閣の際に全閣僚に渡した指示書に復興への方針を「しっかり書き込んだ」と説明。従来と違う表現を用いながら、復興に全力で取り組む姿勢を強調した。「福島の復興なくして東北の復興なし。東北の復興なくして日本の再生なし。これは私の内閣の基本方針です」 (前田倫之)

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